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バーチャルツインがもたらす医療の新常識 心臓治療も脳薬投与もまずは仮想空間でCAEニュース(1/3 ページ)

ダッソー・システムズは「医療分野におけるバーチャルツイン」に関する記者説明会を開催し、バーチャルツインの定義やライフサイエンスおよびヘルスケア領域での役割、具体的な導入事例、将来の展望について紹介した。

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 ダッソー・システムズは2025年6月27日、「医療分野におけるバーチャルツイン」に関する記者説明会を開催した。Dassault Systemes ライフサイエンス&ヘルスケア業界担当バイスプレジデントのClaire Biot(クレア・ビオ)氏が登壇し、バーチャルツインの定義やライフサイエンスおよびヘルスケア領域での役割、具体的な導入事例、将来の展望について詳しく説明した。

Dassault Systemes ライフサイエンス&ヘルスケア業界担当バイスプレジデントのクレア・ビオ氏
Dassault Systemes ライフサイエンス&ヘルスケア業界担当バイスプレジデントのクレア・ビオ氏

バーチャルツインが支える持続可能なヘルスケアシステムの実現

 ダッソー・システムズは、より多くの人々が健康的な生活を送ることを支援するため、「持続可能なヘルスケアシステム」の構築を目指している。その戦略の中核を担うのがバーチャルツインである。

 バーチャルツインの定義について、ビオ氏は「既に多くの方がダッソー・システムズのバーチャルツインについて耳にしたことがあるかもしれないが、私の定義では『シミュレーション可能な人間の身体のデジタルコピー』である」と説明した。

 では、なぜバーチャルツインが持続可能なヘルスケアシステムの実現に不可欠なのか。それは、バイオファーマやメドテック分野の多くの企業が患者データを収集している一方で、そのデータがどのような文脈で取得されたのかを十分に把握できておらず、異なるフォーマットのデータを統合することが困難であるためだという。

 このような課題を解決するためには、収集したデータをモデル上に投影し、異なる専門分野間で共有可能な基準モデルとして機能させる必要がある。これにより、患者の状態を共通の形式で再現し、仮説に基づいた「what-if」シナリオの実行が可能となる。「これこそが、われわれが『バーチャルツイン』と呼ぶものだ」とビオ氏は強調する。

ヘルスエクスペリエンスの未来

 続いてビオ氏は、患者の視点に立った「ヘルスエクスペリエンス」の未来について解説した。

「ヘルスエクスペリエンス」について
「ヘルスエクスペリエンス」について[クリックで拡大] 出所:ダッソー・システムズ

 患者によるヘルスエクスペリエンスの第一のステップは「予防」から始まる。ここでは、食事の選択や運動習慣の改善といった、健康的な生活習慣を日常的に実践することが重要となる。

 続くステップは「継続的なモニタリング」だ。患者自身が常に健康状態を把握し、異常の兆候があれば即座に対応する。「これが『治すのではなく、予防する(prevent,not treat)』という考え方だ」とビオ氏は述べる。

 さらに「患者の自律性」も重要な要素である。患者が自らの健康管理に主体的に関与し、医療に関する意思決定にも積極的に参加するようになる。そのためには、医療に関する情報を正しく理解する力が不可欠となる。

 この患者の自律性の高まりに伴い、医師の役割にも変化が生じる。「従来の『指導者』的な立場から、『テクノロジーを活用した健康アドバイザー』へと進化していく」(ビオ氏)。

 加えて、ペイシェントジャーニー(患者体験の一連の流れ)における「連続性」も欠かせない要素である。診療や治療のプロセスが分断されることなく、関係者間で適切な連携が取られていることが、良好なヘルスエクスペリエンスの実現には不可欠だという。

3DEXPERIENCEプラットフォームの下、ライフサイエンス関連企業と、医療従事者、患者(個人)の全てに対して、さまざまな支援を行うダッソー・システムズ
3DEXPERIENCEプラットフォームの下、ライフサイエンス関連企業と、医療従事者、患者(個人)の全てに対して、さまざまな支援を行うダッソー・システムズ[クリックで拡大] 出所:ダッソー・システムズ

次世代医療への展望

 ビオ氏は「未解決の医療ニーズに応えるためには、科学技術のブレークスルーが不可欠であり、それが次世代の治療法へとつながっていく」と述べる。

 具体的には、ゲノム編集やロボティクス手術、再生医療などがその代表例である。さらに近年では、薬剤と医療機器の融合による新たな治療手法も注目されている。例えば、スマートインジェクターと服薬支援アプリを組み合わせたような、ハードウェアとソフトウェアの統合的提供が進んでいる。

 ダッソー・システムズは「患者が“モルモット”のように扱われるべきではない」との基本姿勢に基づき、「実験はまず仮想空間で行うべきだ」との考えを強く持っている。

 ビオ氏は「自動車業界では既に衝突試験の95%がシミュレーション(仮想空間)で行われており、これと同様に、医薬品や医療機器の試験、さらには医師のトレーニングも全て、まずはバーチャル空間で行われるべきだ」と主張する。

 また、ビオ氏は「良好なヘルスエクスペリエンスは、誰もがアクセスでき、かつ手頃な価格で提供されるべきものだ」と訴える。2030年に向けて、全ての人が基本的な保健医療サービスを、必要なときに、負担可能な費用で受けられる「ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)」の実現が国際的な目標として掲げられているが、「現時点では世界人口のおよそ3分の1がそうした恩恵を受けられていない」とビオ氏は指摘する。

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