電線に流すことができる電流値を求める:CAE解析とExcelを使いながら冷却系設計を自分でやってみる(6)(3/3 ページ)
CAE解析とExcelを使いながら冷却系の設計を“自分でやってみる/できるようになる”ことを目指す連載。連載第6回は、円筒座標系の熱伝導方程式を解き、電線に何アンペアまで流せるかを求める。
いろいろな材料の熱伝導率
表3に、いろいろな材料の熱伝導率を示します。
金属材料では、熱伝導率と電気の導電率(比抵抗の逆数)は比例関係にあります。無酸素銅は熱伝導率が高いので、比抵抗は小さく電線に向いています。アルミも同様ですが、はんだ付けができないところが玉にキズです。
オーステナイト系ステンレス鋼の熱伝導率がやけに小さいところに注目します。オーステナイト系ステンレス鋼は、冷却系の材料に向いていないのです。さらに、電気も流れにくいので電気を流す材料に使うべきではありません。
もう1つ付け加えると、ステンレス鋼の表面にはクロムの酸化物である不動態膜があり、このおかげで錆びていないように見えるのですが、純度の高いCr2O3の比抵抗は絶縁物に近くなります。どうしてステンレス鋼に電流が流れるのかというと、トンネル○○との考えがありますが、引っかき傷による金属原子の接触との考え方もあります。
この項を追加した理由は紙面が余ったからではなく、以下のメッセージを伝えるためです。
SUS304を冷却系の材料として使ってはならない。また、電流を流してはならない。
ちょうどキリが良いので今回はここまでとします。次回は「ふく射」について取り上げます。
読者の皆さん、電線を選ぶ際は表2を見て決めるのではなく、必ず電線便覧を確認してくださいね。これは絶対ですよ。単なる電気製品の故障であればまだしも、発火すれば(火を出せば)法的トラブルに発展する可能性もありますので、ご注意ください。 (次回へ続く)
参考文献:
- [1]日本機械学会|伝熱工学資料 改訂第4版|丸善(1999)
Profile
高橋 良一(たかはし りょういち)
RTデザインラボ 代表
1961年生まれ。技術士(機械部門)、計算力学技術者 上級アナリスト、米MIT Francis Bitter Magnet Laboratory 元研究員。
構造・熱流体系のCAE専門家と機械設計者の両面を持つエンジニア。約40年間、大手電機メーカーにて医用画像診断装置(MRI装置)の電磁振動・騒音の解析、測定、低減設計、二次電池製造ラインの静音化、液晶パネル製造装置の設計、CTスキャナー用X線発生管の設計、超音波溶接機の振動解析と疲労寿命予測、超電導磁石の電磁振動に対する疲労強度評価、メカトロニクス機器の数値シミュレーションの実用化などに従事。現在RTデザインラボにて、受託CAE解析、設計者解析の導入コンサルティングを手掛けている。⇒ RTデザインラボ
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