警備/点検ロボットのugo――挑戦と成長を重ねる技術者集団の軌跡:越智岳人の注目スタートアップ(12)(3/3 ページ)
警備/点検ロボット市場への参入後発ながら急成長を遂げているスタートアップのugo(ユーゴー)。同社の警備/点検ロボットシリーズ「ugo」はどのようにして誕生したのか。成長を支える原動力はどこからくるのか。創業者に話を聞いた。
家事から警備への転換、ポイントは「手のシンデレラフィット」だった
パソナからの紹介でugoのデモを見た大成の幹部は、「両腕を使ってエレベーターのボタンが押せないか」と尋ねた。松井氏が実際にボタンを押すデモを披露すると、「片手でセキュリティカードをかざし、もう片方の手でボタンが押せるから、警備業務に生かせる」と、大成の幹部が提案してきたのだ。
実は大成では警備業務を代行できるロボットを以前からリサーチしていた。しかし、大半のロボットはドアの開閉やエレベーターの移動ができないなど、要件を満たすものを見つけられないでいた。ugoには2本のロボットアームと上下に胴体が昇降する機構があり、エレベーターを改修せずともロボットはフロア移動ができる。まさに自分たちが欲しかったロボットがあったのだ。
松井氏らにとっては背水の陣で挑んだデモだった。それまで警備ロボットに使えるとは考えてもいなかったが、家事のために開発した機能が見事にハマった。松井氏はデモを振り返り「家事のために作ったロボットが、ビル警備でシンデレラフィットした瞬間」と表現する。ugoが警備で生かせると見込んだ大成は、ミラ・ロボティクスが資金難に直面していると知り、すぐに出資を決断。同時に、共同での実証実験も決めた。まさに首の皮一枚で倒産を免れたのである。
ここから破竹の快進撃が始まる。家事代行から警備業務へとピボットするに当たり、松井氏と白川氏は急ピッチで改修を進めた。遠隔操作が前提だったオペレーションは、LiDAR(Light Detection and Ranging、ライダー)を搭載することで自律走行に切り替えた。実証実験では警備員とロボットに開発陣が毎晩同行し、ニーズの洗い出しや改善ポイントを探り、翌朝には改善するサイクルが続いた。
くしくも新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大も追い風となった。警備ロボットとしての実証実験開始を発表すると、警備員の採用に苦戦している全国のビル管理会社からの問い合わせが急増した。特に、工場、発電所やデータセンターでは、地政学的リスクから海外製ロボットを導入しない方針を採るケースが多い。そのため、国内で開発/製造しているugoは、セキュリティ要件の高いスペースの業務でも採用しやすい存在だった。
こうしてugoは2020年11月から商用化を実現。2021年4月には社名も「ugo」に改め、約2億円の資金調達を実施した。以降は冒頭でも触れたように、警備/点検ロボット事業を軌道に載せることに成功。試作から量産設計までのノウハウも十分に蓄積され、市場の需要に対して適切なタイミングとボリュームの製造も実現できるようになった。現在は従業員数60人を抱える企業として、急成長を続けている。
AIを活用した警備/点検ロボットで、さらなる成長を
ugoの導入は単に人件費削減にとどまる話ではない。これまで人間が行ってきた点検/警備業務は、紙で記録されていることが多い。そうしたアナログな現場にロボットが導入されることで、記録媒体が紙からデータに置き換わる必要がある。実際、ugoの導入を契機に、現場のデジタル化が一気に加速するケースも多いという。こうした実例を踏まえ、2024年7月にはNTT西日本と提携し、ビル管理業務のDX(デジタルトランスフォーメーション)化を実現するサービスの提供を開始している。並行して複数のAI(人工知能)ベンダーとの提携も進める。巡回中に撮影した映像や静止画を学習し、警備業務の質を高める取り組みが既に始まっている。また、警備業務だけでなく、生成AIの大規模言語モデルを活用した多言語での案内業務を担う機能も発表したばかりだ。
自社は強みを生かせるロボット開発に注力し、足りない部分は他の企業と協力する――。そうすることで、ハードとソフトの両方で高い拡張性を確保しながら、時代のニーズに応じたソリューションを提供し続ける考えである。
現在も現場に密着しながら開発を進めているugoだが、将来的には警備/点検業務以外の分野への進出も目指している。ロボットとの協働が当たり前になった世界で、ugoのロボットがどのように社会に貢献するのか。挑戦は今も続いている。
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