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月面ローバー技術と超音波モーターで不整地でも長時間動くAMRを――Piezo Sonic越智岳人の注目スタートアップ(7)(1/3 ページ)

月面探査ローバーの研究開発で培った知見と独自の超音波モーター「ピエゾソニックモータ」を活用した搬送用自律移動ロボット「Mighty」を手掛けるPiezo Sonic 代表の多田興平氏に開発経緯やビジョンについて聞いた。

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ステアリング機構にPiezo Sonic独自の超音波モーター「ピエゾソニックモータ」を搭載する搬送用自律移動ロボット「Mighty」と、Piezo Sonic 代表の多田興平氏
ステアリング機構にPiezo Sonic独自の超音波モーター「ピエゾソニックモータ」を搭載する搬送用自律移動ロボット「Mighty」と、Piezo Sonic 代表の多田興平氏[クリックで拡大] ※撮影:筆者

 コロナ禍以降、協働ロボットの導入がさまざまな場面で進んでいる。中でも自律走行搬送ロボット(AMR:Autonomous Mobile Robot)は、工場の製造ラインや物流倉庫にとどまらず、ビルの警備や飲食店の配膳など、普段の暮らしの中で目にする機会も増えた。こうしたアプリケーションが増えていく中、AMRの消費電力の高さが大きな課題となっている。各種センシングや内部での演算処理、アクチュエーター類の動作はもちろんのこと、静止中の姿勢保持にも電力を要する場合がある。バッテリーの性能向上のみならず、各種モジュールにおける消費電力の最適化も欠かせない。

 その1つの解となる技術を持つスタートアップが日本にある。独自開発の超音波モーター技術を保有するPiezo Sonic(ピエゾ・ソニック)だ。超音波モーターの特徴は電力を使わずに姿勢を維持できる点にあり、DCモーターと比べて消費電力を大幅に抑えられる。また、従来のモーターよりも小型で高トルクであるといった利点もある。同社はこの技術を応用した搬送用自律移動ロボット「Mighty」を開発し、消費者向けエレクトロニクス展示会「CES 2022」において「Innovation Award」を受賞するなど海外からも高い評価を得ている。

 創業者の多田興平氏は「単なるモーター屋ではなく、社会に必要とされるロボットを浸透させるスタートアップを目指しています」と意気込む。その言葉の裏側を取材した。

月面ローバーの技術×超音波モーターで8時間駆動するロボット

 Piezo Sonicは2017年12月に創業。代表の多田氏が20年以上開発に携わってきた超音波モーター「ピエゾソニックモータ」を主力製品としている。

 ピエゾソニックモータは、電圧を加えると伸縮する圧電セラミックスを駆動源としている。コイルや磁石による電磁力を利用するモーターとは異なり、摩擦力を利用しているため、MRI装置内など高磁場環境でも使用できる。さらに静音性に優れる他、ロボットなどの姿勢保持に電力を必要としないため、消費電力をDCモーターの50%程度にまで抑えられる。

ピエゾニックモータ(1)ピエゾニックモータ(2) Piezo Sonicの「ピエゾニックモータ」。同等スペックのDCモーターやステッピングモーターと比較して高トルクで極低回転が可能であり、サイズも30%程度軽量。寿命も6000時間と従来品と比較して2倍以上長い[クリックで拡大] ※撮影:筆者

 同社はピエゾソニックモータを活用した搬送用自律移動ロボット(Mighty)を2019年に発表。Mightyのサスペンションには多田氏が中央大学 國井研究室とともに長年開発に携わってきた月面探査ローバーの機構を応用し、15cmの段差乗り越えや真横移動、その場旋回が可能だ。さらに駆動時間も8時間と長く、80分程度しか稼働できない海外製品からの乗り換えを検討する企業からの問い合わせも多いという。

 Mightyの発表以降、改良とバージョンアップを重ね、現在は第3世代モデルが最新となる。2022年にCES 2022でInnovation Awardを受賞した後、2023年には第4世代モデルを発表し、国内EMS事業者(製造受託企業)の神田工業との連携による量産モデルの販売開始を予定している。

 現在、Mightyの引き合いが多いのは工場などの敷地内搬送用途だ。既にさまざまなロボットが導入されている物流倉庫と比較して、床面の凹凸や段差があり、ロボットや小型モビリティの走行に難がある環境でも走行可能な点が評価されているという。当初から不整地での走行を前提としていたこともあり、農地から工場、商業施設までMightyの適用範囲は幅広い。最高時速は10kmと人間のジョギングレベルのスピードであるため、人間との協働やアシストが必要な場面での用途が見込まれる。

 現状は、顧客の要件に沿ったカスタマイズモデルを自社で1台ずつ製造しているため、1カ月で2台製造するのが限界だ。しかし、開発ロードマップ上にある新機能を顧客の要求仕様に合わせて先行的に盛り込むことで、量産に向けた研究開発とビジネスの両輪を回している。こうした経営は、多田氏が研究開発に長年携わった月面探査ローバーの不整地走行に対する知見とピエゾソニックモータの技術力がなせる業だろう。

 研究開発型のスタートアップはコア技術を製品に落とし込むまでに、非常に長い期間を要する。そのため、助成金や株式による資金調達で足元の運転資金を確保しながら、開発や実証実験を繰り返す。まとまった売上を手にするまで長い期間を要することは、あらゆるハードウェアスタートアップにとって悩みの種だ。Piezo Sonicはモーターという主力製品があり、応用先となるロボットが小ロットとはいえ販売できる状態にある。その結果、コア技術を武器としたビジネスを進めながら、次のビジネスの柱となるロボットの研究にも力を注ぐことができている。

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