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世界中の妊婦と胎児を見守るハート型IoTデバイス――メロディ・インターナショナルの挑戦越智岳人の注目スタートアップ(8)(1/4 ページ)

胎児の心拍と妊婦の陣痛を測定し、離れた場所にいる医師とデータ共有できる医療機器「分娩監視装置iCTG」を開発するメロディ・インターナショナル 創業者でCEOの尾形優子氏に開発経緯や取り組み内容について聞いた。

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胎児の心拍と妊婦の陣痛を測定し、離れた場所にいる医師とデータ共有できる医療機器「分娩監視装置iCTG」
胎児の心拍と妊婦の陣痛を測定し、離れた場所にいる医師とデータ共有できる医療機器「分娩監視装置iCTG」[クリックで拡大] 出所:メロディ・インターナショナル

 安全に出産できる医療体制が整っていない途上国はいまだに多い。WHO(World Health Organization:世界保健機関)とUN(United Nations:国際連合)の報告書によれば、世界の妊産婦死亡率は過去20年間で34.3%低下したものの、途上国では2分間に1人の割合で死亡しているという現実がある。一方で先進国にも課題はある。とりわけ日本では1984〜2004年にかけて産婦人科医が15%減少するなど、深刻な人手不足に直面している。

 出産にまつわる課題が世界中に存在する状況に対して、日本から画期的なIoT(モノのインターネット)デバイスで挑む企業がある。メロディ・インターナショナルは香川大学発のスタートアップで、胎児の心拍と妊婦の陣痛を測定し、離れた場所にいる医師とデータ共有できる医療機器「分娩監視装置iCTG(以下、iCTG)」を開発している。

 2022年7月にはWHOの推奨機器に選定。現在、国内では140カ所以上の医療機関が導入し、国外でもアジア圏で採用が進む。同社 創業者でCEOの尾形優子氏に、現在までの経緯を伺った。

産婦人科医の遠隔医療を後押しするIoT医療機器

 メロディ・インターナショナルが手掛けるiCTGは、胎児の心拍を測定する分娩監視装置(CTG)を小型かつIoT化したもので、測定したデータをクラウド上で医師と共有することで産婦人科医のいないへき地や途上国での遠隔診療を目的に開発した医療機器だ。

メロディ・インターナショナルの「iCTG」を装着した際の写真。心拍計と陣痛計をベルトに固定して計測。データはスマートフォンやタブレット端末に転送され、遠隔での診療も可能だ
メロディ・インターナショナルの「iCTG」を装着した際の写真。心拍計と陣痛計をベルトに固定して計測。データはスマートフォンやタブレット端末に転送され、遠隔での診療も可能だ[クリックで拡大] 出所:メロディ・インターナショナル

 ハート型の心拍計と陣痛計から構成され、従来のCTGからコードレスで小型化したことにより、使用場所の制約は大幅に緩和された。また、USBケーブルで充電でき、通信にはBluetoothを採用しているので、使用する環境を選ばない利点もある。

 医療機器はアクセサリーに汎用(はんよう)性のない規格を採用するケースが多い。そのため、周辺機器が故障した際に修理や交換費用が高額になりがちで、ITインフラが整っていない地域では使い勝手が悪いことから、途上国には先進的な医療機器が導入されにくいという課題がある。

 iCTGは使い勝手の良さを徹底的に突き詰め、先進国だけでなく途上国でも高い評価を得ている。その最たる例がブータンだ。ヒマラヤ山脈の東に位置するブータンは人口が約78万人。NICU(新生児集中治療管理室)を備えた医療機関は国内に3カ所しかなく、産婦人科医も15人しかいない。山岳国家でインフラも乏しく、つい先日、後発開発途上国を脱したばかりで、経済面でも決して豊かな国ではない。

 そのブータンで小児科医として働く日本人医師から、メロディ・インターナショナルに問い合わせがあったのは2019年。オンライン会議でデモを披露すると、すぐにブータンに来てほしいとの要請を受けた。

 「ブータンに訪問して実際にデモを実施したところ、現地の産婦人科医から高く評価してもらえました。ただ、予算の面からすぐに導入するという結論には至らず、日本から持ってきた2台のiCTGを貸し出すことにしました」(尾形氏)

 それからしばらくたった頃、ブータン国営放送のWebサイトでiCTGの導入と、ブータン王室の王妃が懐妊中にiCTGを使用していたことを知る。まさに寝耳に水の出来事だった。その後、iCTGをブータン国内に導入するプロジェクトがUNDP(United Nations Development Programme:国際連合開発計画)とJICA(Japan International Cooperation Agency:国際協力機構)により正式に採択。現在ではブータン国内に55台のiCTGが稼働中だ。

 多くの時間を国内外の医療機関への訪問に割くなど、多忙を極める尾形氏だが、事業の第一歩となる製品化には高い壁が何度も立ちはだかった。

途上国でiCTGが使われている様子(1)途上国でiCTGが使われている様子(2) 途上国でiCTGが使われている様子。左側の写真の妊婦の左隣でiCTGを持っているのが尾形優子氏。途上国では日本のように十分な医療体制が整っていない地域も多い[クリックで拡大] 出所:メロディ・インターナショナル

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