けん玉から溶接まで――現実社会超えのVRトレーニングを目指すイマクリエイト:越智岳人の注目スタートアップ(6)(1/4 ページ)
VRを活用したトレーニング教材を手掛ける企業は世界中にあるが、ユニークな発想で開発するスタートアップが東京にある。五反田に本社を構える2019年創業のイマクリエイトだ。現実では不可能な条件をVR空間に付与することで、技術習熟度がアップするという教材は大企業でも導入されている。その画期的な技術が生まれた経緯と発想の源泉を探った。
近年、あらゆる業界でVR(仮想現実)を用いたトレーニングの導入が進んでいる。特に熟練技能者になるまでに長時間を要する製造業の現場にとって、後継者育成と早期の技術習得は喫緊の課題だ。
VRによるトレーニング教材を手掛ける企業は世界中にあるが、ユニークな発想で開発するスタートアップが東京にある。五反田に本社を構える2019年創業のイマクリエイトだ。現実では不可能な条件をVR空間に付与することで、技術習熟度がアップするという同社の教材は大企業でも導入されている。その画期的な技術が生まれた経緯と発想の源泉を探った。
ハードル要素を変えることで習得スピードが向上
イマクリエイトが開発するバーチャルトレーニングシステム「ナップ(NUP)」は、VR用ヘッドマウントディスプレイ(以下、HMD)と、用途に応じてカスタマイズしたコントローラーを使用する。同社の主力製品の1つであり、神戸製鋼所子会社のコベルコE&Mと共同開発した「ナップ溶接トレーニング」を筆者も実際に体験した。
溶接機に接続した金属棒を溶かしながら対象物を加工/接着させるのが溶接の基本だ。溶接時は対象物と溶接棒の距離を常に一定に保ちながら、狙った通りの軌道で操作しなければならない。溶接棒は時間とともに溶けながら溶接部に一体化していくので、上下左右の動きも考慮しながら、短くなる溶接棒に併せて奥行きの動きにも気を配る必要がある。
片手に持つコントローラーには専用のアタッチメントを取り付けている。その重さはおよそ2kg。手に取った瞬間は気にならない重さだが、作業が続くとズシリと手首に負荷がかかる。VRとはいえ思うように動かすのも難しく、操作も次第に雑になる。実際の作業時には溶接マスクを装着するため、熟練工の手の動きや軌道を確認しにくいことも、学ぶ上での課題だったという。
ナップ溶接トレーニングでは、HMDを装着し、実際の溶接機と同じ重さ、形状のコントローラーを使用する。まずはお手本となる手の動きをVR空間上でなぞることで手の動かし方を学習する。何度かトレースして手の動きを学んだところで、今度は自分で操作を行う。対象物との距離やコメントが画面に表示され、作業結果のスコアもすぐに表示される。消耗品である溶接棒もすぐに交換でき、練習の流れを遮ることはない。実技での練習は溶接マスク越しなので手元は暗く、お手本を見ようにも顔を近づけることはできない。しかし、VRでは空間の明るさも自由に調整可能で、お手本の動きも好きな位置で確認できる。
実はこの“VRだからこそ実現できる環境設定”に、ナップ溶接トレーニングのすごみがある。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.