警備/点検ロボットのugo――挑戦と成長を重ねる技術者集団の軌跡:越智岳人の注目スタートアップ(12)(2/3 ページ)
警備/点検ロボット市場への参入後発ながら急成長を遂げているスタートアップのugo(ユーゴー)。同社の警備/点検ロボットシリーズ「ugo」はどのようにして誕生したのか。成長を支える原動力はどこからくるのか。創業者に話を聞いた。
ボードゲーム開発から、家事手伝いロボットに参入
松井氏は2004年に東京工科大学を卒業後、スマートフォン(以下、スマホ)アプリやWebシステムの開発者としてキャリアを積んだ。2011年にIoT(モノのインターネット)デバイスを開発する「ミラ」を創業し、ハードウェア開発へと参入する。その後、2016年にスマホを使ったボードゲーム「CODE HORIZONE」を発表。この際にハードウェアの設計/開発パートナーとして組んだのが、後にugoでCDO(最高デザイン責任者)を務める白川徹氏だった。
CODE HORIZONEはフィールドに配置した戦車と、スマホアプリ上に表示されるバーチャルな歩兵を操り、相手の動きを予測しながら戦うゲームである。ボードゲームといえばアナログなイメージだが、スマホを活用した新しい遊び方を提案した内容だった。松井氏にとっては企画から製造、販売まで一気通貫で手掛けるのは初の試みだったが、開発は苦労の連続だった。量産を委託した中国・深センの企業とのやりとりも難しく、製造原価の削減や品質管理もうまくコントロールできなかった。最終的には設計が納得のいくレベルに達していない状況で量産が進むなど、終始思い通りには進まなかった。
資金調達とプロモーションの一環として活用したクラウドファンディングも、経験の浅いチームにとってプレッシャーとなった。期日までに製品を届けなければならないという焦りから、開発スケジュールはタイトになってしまった。結果としてデビュー作ともいえるCODE HORIZONEは、製品化にはこぎつけたもののセールス面では失敗に終わった。
松井氏は、受託開発で培った開発力はあっても、事業として成立させる力や販売力が不足していたと振り返る。
「当時はメイカーズムーブメントの流れもあり、モノづくりのハードルが下がっているような雰囲気がありましたが、新しい製品をビジネスとして確立するハードルは別次元であり、全く下がっていないと痛感しました」(松井氏)
とはいえ、マーケティングや事業開発も含めて自らの手で製品を企画から量産まで進めた経験は、大きな財産となった。松井氏はその後も深センを頻繁に訪れる中で、急成長するスタートアップの活気に衝撃を受ける。同時に、伸び悩む日本に対して何か貢献できないかと日に日に考えるようになった。新たに始めるなら、再びロボットにチャレンジしたい。それも、日本社会に貢献できるものを――。それがugoの原点であった。
松井氏らは、家事をリモートで代行するロボットを企画。新たにミラ・ロボティクスを設立し、CODE HORIZONEでタッグを組んだ白川氏と再びロボット開発に着手した。ロボットの筐体には、胴体が上下にスライドし、左右にアームを取り付けた人型モデルを採用し、約1年かけてコンセプトモデルを完成させた。
2019年2月に都内で開催された記者発表会では、遠隔操作による洗濯作業の代行サービスを発表し、ロボットによる作業デモンストレーションも披露した。人間の作業よりも動きはゆっくりとしていたが、マスコミからの取材が殺到するなど、反応は上々だった。自治体の補助金も獲得し、ビルのトイレ清掃など実験のフィールドも着実に広げていった。しかし、家事代行ロボットは1年弱で暗礁に乗り上げた。
まず、内部要因として、複雑な作業工程を伴う家事をロボット1台でまかなうのは非常に困難だった。設置する現場環境も家庭によって異なるため、作業場所を確保できない場合もある。現在普及している家庭向けロボットは、シンプルなタスクに特化した掃除機が主流であり、「洗う/干す/畳む」といった複雑な作業を行うには技術的なハードルが高過ぎたのである。
さらに外部要因として、先行者の失敗も影響した。自動衣類折り畳み機「ランドロイド」を開発していたセブン・ドリーマーズ・ラボラトリーズが2019年4月に経営破綻した。100億円もの資金を調達していたにもかかわらず、ロボットアームがユニクロの「エアリズム」を畳めなかったという報道は、ミラ・ロボティクスの資金調達にも暗い影を落とした。
「ランドロイドが無理だったのだから、ugoにできるわけがない」投資家の反応は一気に冷ややかになり、資金も尽きかけようとしていた。松井氏は、株主であり家事代行サービスを共同で手掛ける予定だったパソナに相談。そこで紹介されたのが、ビルメンテナンス大手の大成だった。
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