厳しい業績の背景
厳しい業績となった背景には、中国や米国の市場環境の変化があるという。中国では地場資本の自動車メーカーが販売する新エネルギー車のシェアが急拡大しており、外資系自動車メーカーによる手ごろな価格帯の製品が影響を受けている。2024年はその傾向がさらに加速し、価格競争も激化。中国資本の自動車メーカーは他国への輸出も大幅に増やしており、東南アジアや中東、中南米などでも影響が出ているという。
米国では、HEV(ハイブリッド車)やPHEV(プラグインハイブリッド車)の需要が高まっている中、日産自動車は対応できるラインアップを持たないため苦戦している。
社長の内田氏は「日産固有の課題として、販売計画を達成できていない状況が続いていることがある。市場が急速に変化する中で、計画がストレッチしすぎたものだったことは否定できない」と説明。販売台数が減少する中で、一般管理費など固定費が増加している他、原材料価格の上昇、取引先への補償費用の発生なども利益を押し下げている。モデルミックスの悪化や、在庫削減などに対応するための販売奨励金(インセンティブ)の増加も減益要因となっている。
2023年度までの事業構造改革では目標に近い収益率を確保できたものの、「半導体の供給不足で需要と供給のバランスが大きく崩れたことで、インセンティブに頼らず販売できたのが影響していた。市場が正常化し、本来の競争環境が戻ってきた今、コスト競争力やブランド力など課題が浮き彫りになった」(内田氏)。
事業の改善を2026年度までに
こうした認識の下で、2030年に向けた事業計画と、販売や営業利益率の目標も一部見直す。スリムで強靭な事業構造に再構築し、商品力を高めて再び成長軌道に戻すことを目指す。2026年度までに、年間350万台レベルの販売台数でも株主還元や成長投資を継続できる収益構造となるよう変革を進める。ルノーや三菱自動車、ホンダとの戦略的パートナーシップも引き続き推進し、投資効率や商品競争力を高めていく。
ただ、日産自動車は2024年11月7日、保有する三菱自動車の株式の一部を三菱自動車に売却すると発表した。三菱自動車が発行する株式の34.07%を日産自動車が保有していたが、10.02%を上限に売却する。内田氏は「三菱自動車の経営戦略を支援し、日産自動車の将来の成長機会に備えるとともに財務の柔軟性を高める。資本関係のレベルについてはルノーとも議論してきたし、三菱自動車ともこれまでに議論があって、三菱自動車からの申し出を受けての判断だ」と理由を説明した。
事業改善に向けた第一歩として、2024年12月1日付で販売と収益の責任者である「チーフパフォーマンスオフィサー(CPO)」を置く。AMIEO(Africa, Middle East, India, Europe and Oceania)マネジメントコミッティ(MC)議長のギョーム・カルティエ氏が担当職務を拡大してCPOも務める。日本やASEAN、AMIEO地域、北南米の各地域や、グローバルのセールスやアフターセールスを統括する。
2025年には1月4月に経営体制を変更する。また、事業環境の変化に速やかに対応できるよう、本社と地域拠点の役割を明確化し、スリムな組織や効率的なプロセスにしていく。
事業の安定化に向けた取り組みとして、マーケティング費用や販売費、一般管理費の厳格な管理、設備投資や研究開発費の優先度の見直し、米国での早期退職の実施、生産調整や在庫管理の徹底などをすでに開始した。
また、健全なキャッシュフローを維持し、収益性を向上させるため、グローバルの生産能力を20%削減するとともに、人員も世界で9000人削減する。製造原価の削減については、部品の種類を減らして仕様を最適化する取り組みをEV(電気自動車)だけでなくエンジン車やe-POWER搭載モデルにも前倒しで適用する。こうした取り組みにより、2024年度と比較して固定費を3000億円、変動費を1000億円それぞれ削減する。
中国での新エネルギー車投入や、米国へのPHEVやe-POWER搭載モデルの投入など不足していたラインアップの展開も加速させる。車種当たりの販売台数も増やす。さらに、開発期間は30カ月に短縮し、市場のニーズを速やかに商品に反映させる。
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