アルツハイマー病やALSの原因物質などを超高感度に検出する技術を開発:医療技術ニュース
岐阜大学は、新たに発見した界面活性剤「Brij-58」を活用し、神経変性疾患の発症に関わるTDP-43およびアミロイドβ凝集体の超高感度検出技術を開発した。脳組織に蓄積した病的凝集体の検出が可能だ。
岐阜大学は2024年10月9日、新たに発見した界面活性剤「Brij-58」を使用して、神経変性疾患の発症に関わるTDP-43およびアミロイドβ凝集体の超高感度検出技術を開発したと発表した。最小5フェムトグラムの超微量凝集体を検出でき、実際の患者の脳組織に蓄積した病的凝集体の検出が可能だ。
アルツハイマー病や筋萎縮性側索硬化症(ALS)、前頭側頭型認知症(FTLD)など神経変性疾患に共通する特徴として、異常タンパク質凝集体の蓄積がある。ALSとFTLDではTDP-43、アルツハイマー病ではアミロイドβが原因物質として知られている。病的な異常凝集体の検出には、試験管内で異常凝集体を増殖することで超高感度に検出するシード増幅アッセイ(SAA)法が用いられる。
従来のSAA法を改良するために、まず界面活性剤をスクリーニングし、Brij-58を見いだした。Brij-58は、反応基質となるTDP-43やアミロイドβの正常型モノマーを安定化させつつ凝集体のシード増幅を阻害しないという特異な性質を持つ。正常型モノマーとBrij-58が結合して安定的なミセル構造を形成するため、不安定なモノマーにより凝集体のシード増幅がうまく起こらないという欠点を克服した。
Brij-58を組み入れたSAA法により、5フェムトグラムのTDP-43病的凝集体を検出することに成功した。これは、従来の検出限界の数千倍に相当する。また、アミロイドβについても、検出限界が従来法の百倍以上に向上した。
実際の患者の脳組織を用いた検証実験では、ALSとFTLDの患者の脳組織からTDP-43凝集体を検出し、健常者との差を確認することに成功した。
今回の研究成果は、ALSやアルツハイマー病の早期診断や早期治療介入に貢献する可能性がある。
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