スマート工場化は誰が主導すべきか、成否を握る最も重要な要素とは:モノづくりの未来予想図(5)(3/3 ページ)
本連載では、シュナイダーエレクトリック インダストリー事業部 バイスプレジデントの角田裕也氏が、製造業で起きている変化をグローバルな視点で紹介しながら、製造現場の将来像を考察する。
DXやスマート工場の成功の鍵は経営者が握っている
これまでに、スマート工場の5つの成功要素のうち、「運用効率と生産性向上」「設備効率ためのデータ管理」「インフラとサイバーセキュリティ」「エネルギー管理とサステナビリティ」までを読み解いてきた。こうした取り組みは、すでにさまざまな企業で対策が取られてきたのだが、一方で現場での部分的なアプローチにとどまっているケースも多いように見受けられる。
いわゆる部分最適からまだ脱却できていない中で、DXやスマート工場のトライアルを進めているような状況だ。何より、経営責任者の理解がなければ、これらの取り組みは進められないし、仮に進んだとしても有益な効果が得られない。すなわち、スマート工場の成功要素にとってもっとも重要なのは、「ガバナンスとチェンジマネジメント」であると考えている。シュナイダーエレクトリックを例に、その理由を紹介したい。
シュナイダーエレクトリックでは2017年に、世界中で所有している約200の自社工場をスマート工場化するプロジェクトが立ち上がった。その時点で、「ガバナンスとチェンジマネジメント」を遂行する組織作りに取り組んでおり、トップ自らがスマート工場の進捗を確認しながらプロジェクトを推進してきた。
例えば、マネジメント側主導でスマート化に関する評価指標を「シュナイダー・パフォーマンス・システム」として明確に数値化し、拠点ごとにスコアを算出できる体制としてシステム化している。実際に、日本にある物流拠点も、世界全体で同じ指標によって評価されており、スコアを上げるために次にどういったアクションに取り組めば良いかがはっきりと判断できる。
シュナイダーが約7年における取り組みによって、200以上の工場や物流拠点をスマート化できたのは、何よりもこうしたトップダウンの体制でプロジェクトに挑めたことが大きい。
私が日本のお客さまを訪問した際に違和感を覚えるのは、社内に多数のDXチームがあることだ。それらのチーム間で役割分担されており、違う部署に行くと別のDX担当者が出てきて話がつながっていなかったりする。結局の所、DXやスマート工場への取り組みも日本式のモノづくりの改善活動と同じようなアプローチで、みんなが草の根活動としてやっていたりするのだ。
スマート工場化を成功させるには、強力なトップダウンが必要だ。「スマート工場というものはこういうものである」という明確な定義に基づき、いつまでに実現させるのかなどの統一されたミッションが重要になる。
経営者の方が、「うちにはスマート工場のプロジェクトを進められる人材がいない」と語られることも多い。だが、「なによりもあなた自身がプロジェクトをリードすることこそが、成功への近道だ」ということを、この連載を終えるメッセージとして最後にお伝えしておきたい。
著者紹介:
シュナイダーエレクトリック
インダストリー事業部 バイスプレジデント
角田 裕也
1999年同志社大学卒業後、キーエンスに入社。精密測定機器セールス部門のリーダー、マネジャーを務め、2009年にシーメンス入社後はモーションコントロールソリューション、IoTソリューション部門の部門長などを歴任。その後、アクセンチュアを経て、2020年にシュナイダーエレクトリック入社、現在はインダストリアルオートメーション事業部取締役バイスプレジデントとして同部門を統括。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- ハノーバーメッセと「ライトハウス」、グローバルトレンドに見る製造業の未来
本連載では、Schneider Electric(シュナイダーエレクトリック)インダストリー事業部 バイスプレジデントの角田裕也氏が、製造業で起きている大きな変化をグローバルな視点で紹介しながら、製造現場の将来像を考察する。第1回は欧州のスマート工場への取り組みと、近年注目される「ライトハウス」について取り上げる。 - 迫りくる「2025年の崖」、真のデータ活用を実現するスマート工場への道筋とは
本連載では、Schneider Electric(シュナイダーエレクトリック)インダストリー事業部 バイスプレジデントの角田裕也氏が、製造業で起きているグローバルな変化を紹介しながら製造現場の将来像を考察する。第2回は、「2025年の崖」が待ち構える中、今進めるべきスマート工場に向けた取り組みを紹介する。 - 世界中から狙われる日本のスマート工場、億単位の損失から工場を守る方法とは
本連載では、Schneider Electric(シュナイダーエレクトリック)インダストリー事業部 バイスプレジデントの角田裕也氏が、製造業で起きている変化をグローバルな視点で紹介しながら、製造現場の将来像を考察する。今回はサイバーセキュリティについて取り上げる。 - ERPから工程制御まで水平垂直のデータ連携が実現するモノとは、飲食料品製造の例
本連載では、Schneider Electric(シュナイダーエレクトリック)インダストリー事業部 バイスプレジデントの角田裕也氏が、製造業で起きている変化をグローバルな視点で紹介しながら、製造現場の将来像を考察する。今回は飲食料品製造などにおけるデータ連携について考える。 - シュナイダーエレクトリックが考える産業用IoTで成功するための2つの注意点
フランスのシュナイダーエレクトリックは独自のIoT基盤など産業用IoTへの取り組みを強化しているが、重点領域の1つとして産業用機械向けのIoTソリューションを展開。同社のマシンソリューション事業への取り組みとシュナイダーエレクトリックの産業用IoT分野における強みについて、シュナイダーエレクトリック インダストリービジネス マシンソリューションズのシニア・バイスプレジデントであるアリ・ハジ・フラジ氏に話を聞いた。 - デジタル化で勝負を挑むシュナイダー、機械向けとプラント向けでIoT基盤を訴求
シュナイダーエレクトリックはデジタル変革への取り組みと日本での現状について説明会を開催し、同社のIoT基盤「EcoStruxure」を機械向けとプラント向けで展開する方針を示した。