ハノーバーメッセと「ライトハウス」、グローバルトレンドに見る製造業の未来:モノづくり現場の未来予想図(1)(1/3 ページ)
本連載では、Schneider Electric(シュナイダーエレクトリック)インダストリー事業部 バイスプレジデントの角田裕也氏が、製造業で起きている大きな変化をグローバルな視点で紹介しながら、製造現場の将来像を考察する。第1回は欧州のスマート工場への取り組みと、近年注目される「ライトハウス」について取り上げる。
2011年にドイツ政府が国家戦略プロジェクトとして発表した「Industry 4.0(インダストリー4.0)」。その取り組みの1つである「スマート工場」は、日本でも2015年から2017年にかけて大きく注目された。その後、コロナ禍の影響もあり、働き方が大きく変わろうとしている日本の製造業において、スマート工場の取り組みは今後どうなっていくのだろうか。
今回は、2023年4月17〜21日に開催された「ハノーバーメッセ(Hannover Messe)」で見た、ドイツを中心とする欧州のスマート工場の取り組みと合わせて、スマート工場の指標として世界各国で注目されている「ライトハウス」について紹介したい。
ハノーバーメッセで見た欧州で進む製造業のデジタル化
筆者にとっては3年ぶりの参加となった、世界最大級の製造業のための国際展示会「ハノーバーメッセ」。全体を通して強く印象に残ったのは、今や日本では話題に上ることも少なくなったインダストリー4.0の取り組みが、ドイツをはじめとする欧州では引き続き進化しており、製造業においても人の仕事がどんどんデジタル化していこうとしていることだ。
そのことを実感させたのが、以下の4つの動きだ(図1)。
1つ目は「Catena-X」と呼ばれるデータ連携基盤が活動を開始したことだ。インダストリー4.0のコンセプトの1つが、IoT(モノのインターネット)によって工場内がつながり、1つのプラットフォームに集約されることだが、「Catena-X」ではそれらが拡張されて企業をまたいだプラットフォームになっていく。
特に自動車業界では、さまざまな企業がデータを共有管理しようとしているが、共有されるのは工場の稼働データだけでなく、開発から製造、保守までのバリューチェーンのデータを一気通貫で見られるようにしたり、電力使用量などカーボンニュートラルに関わるデータ管理にまで広げたりしようとしているようだ。
2つ目は、異なる設備や機器、システムなどをオープンスタンダードで連携させて「工場のつながる化」を実現させる、「アセット管理シェル(Asset Administration Shell)」の取り組みが加速していることだ。会場でも、各社でファイル交換やAPI、アセット間の相互接続などに積極的に取り組み、製造業全体でアセット管理シェルを取り入れていこうと発表も行われていた。
3つ目は、「生成AI(人工知能)」の製造業へのユースケースの発表だ。遠隔サポートシステムの自動化やPLCのラダープログラムの自動生成などにAIを活用し、人の作業を簡素化した事例がいろいろと紹介された。シュナイダーエレクトリックも生成AIを製造業で活用する研究を進めているが、こうした取り組みは欧州の製造業の方が日本よりも先行していると感じた。
そして、4つ目は「産業用メタバース」の実運用に関する検討が開始されたことだ。インダストリー4.0のキーテクノロジーともいえるデジタルツインでは、バーチャルの世界をどれだけリアルに近づけるかに力が入れられ、そこには人の姿はなかった。だが、産業用メタバースではそこに人も登場するので、デジタルツインよりも実現性がありそうだ。
例えば、従来はベテランの作業者が直接現場に行って対応しなければならなかった作業でも、メタバースを活用すればベテランが遠隔から指示しながら、現場では新人が同じようなクオリティーで対応できるようになる。われわれのグループ会社であるAVEVAでも、すでにこうした取り組みを進めている。
なかなか加速しない日本のスマート工場への取り組み
欧州で進んでいるこうしたトレンドは、少子高齢化でワーカーの数が減ってきた日本の製造業においても、もっと注視し積極的に取り組んでいくべきだろう。
人が行っていた仕事をどんどんデジタル化し、効率を上げていく必要がある。3年ぶりのハノーバーメッセの会場で、日本は欧州に比べてスマート工場に関わる取り組みで後れを取っていると実感した。
連携基盤やアセット管理シェルに関しては、日本でもいろいろな取り組みを進めようとしているが、まだ掛け声に終わっている感が否めない。とはいえ、製造に関わる複数の企業がコミュニティーを作ることに関しては、ドイツの中でも懐疑的な人がいる。
生成AIと産業用メタバースの取り組みについては、欧州ではやれるところからどんどん進んでいきそうだ。
特に、日本では費用対効果の面からはっきりとした導入メリットが見えてこなかったデジタルツインに関して、シーメンス(Siemens)などインダストリー4.0を地道に進めてきた企業が、ハノーバーメッセの会場ではものすごい勢いで具体的に実演しており、産業用メタバースの活用がだんだん現実味を帯びてきたと感じた。
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