お年寄りもはっきり聞こえる“曲面サウンド” 急成長のミライスピーカーの秘密:小寺信良が見た革新製品の舞台裏(30)(5/5 ページ)
耳の聞こえづらい高齢者でもしっかり聞こえる特殊な「音」を発生する特許技術を持つスピーカーのメーカーがある。「ミライスピーカー・ホーム」を手掛けるサウンドファンだ。同製品はこれまでに累計20万台を売り上げ、大きな注目を集めている。高齢者からの需要も多いが、そもそもどのような「音」を、どのような機構で発生させているのか。サウンドファンの皆さんにお話を伺った。
CESを経て、狙うは世界
――米国のCESにも出展されたそうですが、向こうでの反応はいかがでしたか?
波多江良徳氏(波多江氏) 2023年CESに初めて出展させてもらった際は、ホームを持っていったんですが、やはり視聴環境が日本とは異なっていました。1つは、日本に比べると部屋が広い。あともう1つは、米国で販売されているテレビに、アナログのイヤフォン端子がついているものが比較的少ない。それで若干売りにくい状況だったんです。
そのため、ホームと光デジタル端子からアナログに変換する変換器をセットにしてテスト販売をしましたが、やっぱりケーブルの接続本数も多く、米国マーケットでの販売は難しさを感じました。
そこで2023年10月20日、「ミライスピーカー・ステレオ」(ステレオ)を発売しました。これには光端子がついている。かつ、パワーもホームの2つ分ということで、2024年はじめのCESの出展時にはステレオのみで行って、今は一定の支持を得られるようになってきているかな、というところです。
――逆に言えば、2023年のCES出展がなければStereoの開発には至らなかったということですか?
田中氏 以前からステレオの企画はありました。やっぱりホームを使っているお客さまからお声をいただくことも実際あったので。ステレオのプロトタイプはひそかにずっと作ってきて、結局2年かかりました。ようやく3年目に離陸した感じです。
――とにかくミライスピーカーは1回体験してみないと効果が分からないところがありますよね。これは日本では量販店に行けば試聴できる、みたいな感じにはなっているんですかね。
波多江氏 そうですね。量販店では900店舗ぐらいで試聴できるようになっています。そのうち半分ぐらいはミニとステレオも両方聴いていただけます。
――今ようやく多くのピースがはまって、「人の役に立つ仕事」という最初のコンセプトが回り始めたところかと思います。今後もやはり、聞こえが悪い方へ向けての商品を今後も開発していく方向で事業を進めるということですかね。
田中氏 2023年にStereoを出したばかりですけど、やっぱりいろいろと改善点はあります。あとは、世の中には聞こえをサポートする製品がいっぱい出ていますので、その中でうちの特徴を生かして参入できるところを模索している最中です。全く違う形態の商品が出るかもしれません。今後、そのあたりにもご注目いただければと思います。
歪みと言えば、オーディオ的にはもっとも敬遠される現象だ。ただ、デジタル的な歪みは音量や周波数に対してリニアに反応しないため聞き苦しいのに対し、アナログ的な歪みはリニアに反応するので、ギターアンプなどには積極的に導入されている。私たちはその歪みの音を、「カッコイイ」とか「パワフル」として認識している。
ミライスピーカーの曲面サウンドも、こうしたアナログ歪みを積極的に利用した例で、ターゲットを聞こえに悩みを抱える人に絞った。実際サウンドファンの社員も、60歳を超えたベテラン技術者が多いと聞く。
ユーザーも高齢者が多く、サポートも独自のノウハウがあるというが、今後多くの企業がこうした対応を迫られるのは必至だろう。サウンドファンの開発、マーケティング、サポートのノウハウは、これからの日本に必要な要素の塊だといえる。
筆者紹介
小寺信良(こでら のぶよし)
映像系エンジニア/アナリスト。テレビ番組の編集者としてバラエティ、報道、コマーシャルなどを手掛けたのち、CGアーティストとして独立。そのユニークな文章と鋭いツッコミが人気を博し、さまざまな媒体で執筆活動を行っている。
Twitterアカウントは@Nob_Kodera
近著:「USTREAMがメディアを変える」(ちくま新書)
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