無機材料表面の性質予測に理論計算と機械学習を用いる新たな手法を開発:研究開発の最前線
東北大学は、無機材料表面の性質予測に理論計算と機械学習を用いる新たな手法を開発した。表面に吸着する不純物などの影響を除去して、無機材料表面の基本的な電子構造を、高精度かつ網羅的に予測できる。
東北大学は2024年3月29日、東京工業大学、産業技術総合研究所と共同で、無機材料表面の性質予測に理論計算とML(機械学習)を用いる新たな手法を開発したと発表した。表面に吸着する不純物などの影響を除去して、無機材料表面の基本的な電子構造を、高精度かつ網羅的に予測できる。
今回の研究では、第一計算原理により、約3000種類の酸化物表面の原子位置の緩和構造と表面エネルギー、イオン化ポテンシャル(Ionization Potential:IP)、電子親和力(Electron Affinity:EA)を計算し、表面特性のデータベースを作成。次に、構造緩和前の表面原子配列から、構造緩和後のIPとEAを予測するニューラルネットワークを構築した。
第一原理計算値とニューラルネットワークによる予測値の比較検証では、高精度でIP、EAを予測できることが確認できた。
さらに、三元系酸化物表面への展開として、約700種類の三元系酸化物無極性表面の理論計算データを用いて転移学習を試みたところ、訓練データの割合が増えるにつれて誤差が小さくなった。理論計算データを増やすことにより、精度が向上する可能性を示唆している。
これまで困難だった物質表面の系統的な評価が可能になったことで、光触媒などの材料探索や電子、光電子デバイスの設計などへの応用が期待される。今後、硫化物や窒化物など物質系の表面特性の予測や表面以外の特性の予測への適用拡大を図る。
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