CO2の吸着により磁石としての性質を付与できる多孔性材料を開発:研究開発の最前線
東北大学は、二酸化炭素の吸着により、磁石としての性質を付与できる多孔性材料の開発に成功した。二酸化炭素の吸脱着の繰り返しにより、磁気秩序の形成と消去も繰り返し起こる可逆性を有している。
東北大学は2023年12月5日、CO2を吸着させることで、磁石としての性質を付与できる多孔性材料の開発に成功したと発表した。CO2の脱離で元の状態に戻るため、吸脱着の繰り返しにより磁気秩序の形成と消去も繰り返し起こる可逆性を有している。武漢大学、大阪大学との共同研究による成果だ。
今回の研究では、金属イオンと有機配位子で構成される「金属・有機複合骨格(Metal-Organic Framework:MOF)」と呼ばれる分子性多孔性材料に着目。MOFの特性を付加した多孔性磁石(MOF磁石)を用いて、CO2吸着による磁気秩序の創出を検討した。
実験ではまず、電子を他分子に与えるカルボン酸架橋水車型ルテニウム二核(II、II)金属錯体と、電子を受け取るTCNQ(7,7,8,8-tetracyano-p-quinodimethane)誘導体からなる層状化合物を開発した。この化合物は、電子スピンを持つものの磁石としての性質は示さなかったが、二酸化炭素を吸着させると反強磁性体へと変化した。
磁化−温度曲線を見ると、温度が62Kの時をピークに、電子スピンがバラバラの方向を向いている常磁性体から磁気秩序を示す反強磁性体に変化している。また、反強磁性状態の化合物に130エルステッド(Oe)以上の磁場を印加すると、フェリ磁性体となった。フェリ磁性体へ変換した化合物は、印加磁場を取り除いても磁石の状態を維持し続けた。この過程は、CO2の吸脱着により何度でも変換できる。
CO2は、広い温度帯でガスとして扱え、圧力も自由に変えられる非磁性物質だ。物質への吸脱着も容易なため、ガス吸着による磁気制御や化学物質から情報を取り出す変換材料などへの応用が期待される。
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