「必要な性能の半導体が欲しいときに入手できない」、企画力向上急ぐ:車載電子部品(2/2 ページ)
自動車用先端SoC技術研究組合は新エネルギー・産業技術総合開発機構の「ポスト5G情報通信システム基盤強化研究開発事業/先端半導体製造技術の開発(委託)」の公募に「先端SoCチップレットの研究開発」を提案し、採択されたと発表した。
チップレット技術のメリットと課題
チップレット技術について、ASRA 専務理事の川原伸章氏(デンソー シニアアドバイザー)は「レゴブロックのように複数の半導体を1つのパッケージに集積したもの。チップレット技術を使えば、ローエンド向けのSoCを2つ組み合わせてミッドレンジ向け、4つ組み合わせてハイエンド向け……というように展開できる。基本のSoCを同じにして搭載数で差をつければ、全てのクルマに同じSoCを搭載することが可能になり、開発効率の向上や開発期間の短縮につなげることができる」とメリットを語った。
別の利点として、「メモリをSoCの近くに持ってくると計算速度が向上し、消費電力を低減できる。AIのアルゴリズムが動作するときには、大量の画像データを計算して結果をメモリに書き込み、その結果をメモリから引き出してまた計算するという工程を何度も繰り返す。チップレット技術でメモリとSoCを近くに持ってくることができる。さらに、チップサイズを小さく分割することで歩留まりを向上させ、コスト低減を図ることもできる」(川原氏)という。
チップレット技術では、AIに関わる部分を対象に、技術進化に合わせて柔軟に変更しながらSoCを提供することもできる。
チップレット技術をベースとするSoCを実現するには複数の技術開発が必要になるとしている。1つはチップレットの境目をなくすための「ハードウェアアブストラクション」だ。この他、分割されたSoCが持つそれぞれのキャッシュメモリを1つの大きなキャッシュメモリとして使えるようにする「キャッシュコヒーレント」、チップ間の高速通信で求められる機能安全やリアルタイム性を満たすためのハードウェアとソフトウェアの技術、車載向けの信頼性を確保するための材料開発やパッケージング技術の開発などが課題として挙がっている。
チップレット技術に合わせてソフトウェアを動かすに当たって、ハードウェアの完成を待つのではなく、開発のフロントローディングが重要になる。そのためのデジタルツイン技術の活用も不可欠だとしている。チップレット技術は、さまざまなプロセス技術が混在する環境でも信頼性や性能を成立させるのも課題になってくる。
研究開発は「車両システムアーキテクチャ」「SoCアーキテクチャ」「チップレット技術」の3つのワーキンググループで行う。それぞれのワーキンググループが連携するだけでなく、大学や標準化機関、ファウンドリー、OSATなど外部とも協力する。
「車両の電子プラットフォームの構造設計を踏まえて、最適に機能する半導体を用意するのが自動車メーカーとしては理想だが、今は順番が逆になっていて、世界の名だたる半導体メーカーが用意するモノを採用させてもらう構造になっている。半導体メーカーの発表タイミングとかみ合わなければ1つ古い世代を使わざるを得なくなる。ASRAでは、電子プラットフォームとSoCの要求を明確にした上で土台作りをしていきたい」(山本氏)
2024〜2028年度の5年間で研究開発を行い、SoC、チップレット、車両のそれぞれの技術を確立し、2030年から量産モデルで搭載することを目指す。2024年度は車両システムアーキテクチャとチップレットSoCの要件定義、チップレットSoCの目標値の設定や詳細な開発計画の確定などに取り組む。
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