新車開発期間を2年短縮、Armの最新IPをバーチャル試作で利用可能に:車載ソフトウェア
Armは自動車開発向けのバーチャルプラットフォームを発表した。同社のAutomotive EnhancedプロセッサのIPを使用したバーチャルプロトタイピングにより、半導体の生産を待つことなくソフトウェア開発に着手できる。開発期間は最大で2年短縮可能だという。
Armは2024年3月14日、自動車開発向けのバーチャルプラットフォームを発表した。同社のAutomotive Enhanced(AE、自動車向け)プロセッサのIPを使用したバーチャルプロトタイピングにより、半導体の生産を待つことなくソフトウェア開発に着手できる。開発期間は最大で2年短縮可能だという。
次世代のAEプロセッサには、2021年3月に発表した最新アーキテクチャ「Armv9」をベースにしたテクノロジーを自動車向けで初めて採用し、自動運転システムやADAS(先進運転支援システム)にデータセンタークラスの性能を提供する。また、Armv9ベースのCortex-Aも次世代AEプロセッサのラインアップに含まれている。これらの最新IPが、半導体として生産される前にバーチャルプロトタイピングのプラットフォームの導入初日からソフトウェア開発に利用できる。
これらのAEプロセッサIPを事前に統合/検証した構成によるコンピュートサブシステム(Compute Subsystem、CSS)についても発表した。自動車向けCSSの第1弾は2025年中に提供する予定だ。最先端のプロセステクノロジーに対応し、性能や消費電力、実装面積に最適化する。本番環境のハードウェアを想定してIPを活用し、実際のチップレットシステムにも迅速に適用できるとしている。
ソフトウェアとハードウェアの両方でソリューションを提供することで、AI(人工知能)を使う車両の開発を支援する。
さまざまなパートナーが協力するバーチャルプロトタイピング
バーチャルプロトタイピングのプラットフォームは、AWSの協力によってクラウドで提供する(オンプレミス環境も可)。AWSのクラウドはArmベースなので、クラウド上のプラットフォームで開発したソフトウェアをそのままArmベースの車載コンピュータに移すことができるという。シーメンス(Siemens)、アンペア(AMPERE)、コリリアム(Corellium)、ケイデンス(Cadence)などのEDAパートナーも参加しており、それぞれがArmのAEプロセッサIPのモデルに自社のツールなどを組み合わせた独自のバーチャルプロトタイプ環境を構築する。
Siemensは、SDV(ソフトウェアデファインドビークル、ソフトウェア定義車両)用のデジタルツインソリューション「PAVE360」を使用したハードウェア検証支援ツールに、クラウドでのプレシリコン開発を追加する。Corelliumは、クラウド上のAWS Gravitonで実行される独自のモデリングテクノロジーを生かして代表的なIPの機能のバーチャルプロトタイプを提供する。SiemensもCorelliumも、クラウドで実行されるArm IPの高速モデルを提供し、高効率なソフトウェアの開発と検証を実現する。Cadenceは、ADASアプリケーション用のチップレットの開発を加速するために、Helium VirtualおよびHybrid Studioに基づくレファレンスデザインやソフトウェア開発プラットフォームを提供する。
自動車メーカーやサプライヤーは、EDAパートナーに打診してバーチャルプロトタイピングのプラットフォームを使うことになる。バーチャルプロトタイピングのプラットフォームを通じて、SoCのアーキテクチャの検討の他、機能/アプリケーションの開発や単体テストを行うことができる。ファームウェアやリアルタイムOS、デバイスドライバによるベースソフトウェアプラットフォームの開発と統合、OSの移植、ドライバーやミドルウェアの開発にも対応する。
さらに、バーチャルプロトタイピングのプラットフォームで開発できるアプリケーションソフトウェアに関しても、エコシステムのさまざまなパートナーの協力によって、ソフトウェアスタック全体にわたってカバーする。パートナーとして挙がっているのは、Autoware Foundation、BlackBerry QNX、Elektrobit、Kernkonzept、LeddarTech、Mapbox、Sensory、Tata Technologies、TIER IV(ティアフォー)、Vectorなどだ。
バーチャルプロトタイピングのプラットフォームは、ArmプロセッサをベースにSDVの標準化を進めるSOAFEEで認定されたものであるため、現在扱っているソフトウェアをシームレスに移行させることができるとしている。既存世代のIPから次世代へのポータビリティーも確保される。日本では、デンソー、イーソル、日立アステモ、パナソニックオートモーティブシステムズ、ルネサス エレクトロニクス、ティアフォーなどがSOAFEEを通じてArmのパートナーとなっている。
次世代のAEプロセッサ
次世代のAEプロセッサは、自動運転システムやADASに向けたものから(Arm Neoverse V3AE)、SDV向けアプリケーション(Arm Cortex-A720AE)、消費電力の効率化と機能安全(Arm Cortex-A720AE)、64ビット演算によるリアルタイム処理(Arm Cortex-R82AE)、高負荷な画像認識(Arm Mali-C720AE)、ゾーンコントローラーやマイコンレベルまで、ラインアップをそろえる。
これらのIPはMarvell、MediaTek、NVIDIA、NXP Semiconductors、ルネサス エレクトロニクス、Telechips、Texas Instrumentsなどが採用を表明しており、バーチャルプロトタイピングのプラットフォームでも利用できる。
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