生成AIで変わる自動車のAIアシスタント、SDVの布石としての役割も:MONOist 2024年展望(1/3 ページ)
ドライバーを理解し、的確にサポートするAIアシスタント。定番ともいえるコンセプトで、まだ実現しきれていない部分も残っていますが、2024年の今、リアリティーを持って改めて提案されています。
クルマのインフォテインメントシステムには優秀なAI(人工知能)アシスタントが搭載されていて、ドライバーの発する言葉を人間のように理解できる。AIアシスタントは聞かれたことに適切に返答したり、要求された操作を実行したりする。
さらに、AIアシスタントはカメラを通じてドライバーの表情や視線を観察している。疲れているとき、眠そうなとき、あるいは元気なとき、状況に合わせてドライバーに役立つことを提案する。一人一人に対して最適に振る舞うAIアシスタントによって運転中の快適性を向上させ、ひいては愛車として自社の製品が愛されるように寄り添っていく……。
こうしたコンセプトは過去にさまざまな自動車メーカーやサプライヤーが何度も提案してきました。SF作品に登場したこんなクルマに憧れた経験があって、製品化に取り組んでいるエンジニアの方々もいらっしゃるでしょう。定番ともいえるコンセプトですが、2024年の今、リアリティーを持って改めて提案されています。
これまでの車内のAIアシスタント
インフォテインメントシステムのAIアシスタントに近い機能は各社によって既に製品化され、市場に出ています。決まった単語をコマンドとして発話する必要があったのは完全に過去のことで、「暑い」と言うだけで室温を下げる必要があると理解してエアコンの温度を下げますし、「お腹が空いた」とさえ言えば食事のことだと判断してカーナビゲーションシステムで飲食店を検索します。
「暑いんだけど」「ちょっと暑いなあ」など違った言い方でもシステムがエアコンや温度に関する発言だと理解できるのは、自然言語処理によるものです。また、テキストメッセージを送る場合には、乗員が口頭で言ったことを正確に文字起こしして文面を作成することができる他、雑談に応じることができる遊び心を製品に組み込んだ会社もありました。
一時期は、自前で音声認識技術に取り組む企業や、自動車向けに専用で開発する企業が多かった印象があります。その理由としては、走行音などノイズが多いためスマートフォンなどと比べて車内での音声の入力が一筋縄ではいかないことや、カーナビゲーションシステムの処理性能が限られていること、走行する場所によっては通信圏外になるため常時接続を前提にできないことなど、自動車特有の事情がありました。テック企業の技術を安易に採用するのはいかがなものか、というこだわりもあったようです。
しかし、現在はスマートフォンやスマートスピーカーなどで強みを持つ大手テック企業の技術が広く採用されています。自動車特有の事情を踏まえながら、段階的に浸透してきたといえます。まず、スマートフォンの表示をカーナビゲーションシステムの画面に投映する機能としてGoogle(グーグル)は「Android Auto」を、Apple(アップル)は「CarPlay」を展開しました。これにより、運転中にも「オーケー、Google」「ヘイ、Siri」と話しかける“いつも通りの操作”が使えるようになりました。
単なる投映にとどまらない、インフォテインメントシステムの基盤となるソフトウェアとして車載Androidも展開されており、採用する自動車メーカーも増えています。Appleも次世代CarPlayを開発中です。メーターなど計器類と連携した表示や、空調の操作などが可能になる予定で、自動車のハードウェアと緊密に統合するとしています。Amazon.com(アマゾン)も、「Alexa」が利用可能で車内に取り付けられるスマートスピーカーを発売しましたが、インフォテインメントシステムの開発者がAlexaを組み込むためのソフトウェア開発キット(SDK)も展開してきました。
生成AIや大規模言語モデルの活用を自動車メーカーが宣言
「CES 2024」(米国ラスベガス、2024年1月9〜12日)に合わせた発表で、幾つかの自動車メーカーが生成AIや大規模言語モデル(LLM:Large Language Models)に言及しました。自然言語処理を発展させる大規模言語モデルによって、自動車のAIアシスタントを進化させる考えです。
フォルクスワーゲン(VW)は、OpenAIの「ChatGPT」を統合した新たなAIアシスタントを2024年半ばから米国向けモデルで標準機能として採用すると発表しました。対象となるのは、最新世代のインフォテインメントシステムを搭載している「ID.7」「ID.4」「ID.5」「ID.3」や、「ティグアン」「パサート」「ゴルフ」の最新モデルです。新しいAIアシスタントではChatGPTを利用するためのアカウント作成やアプリのインストールなどは不要で、「ハロー、IDA(アイダ)」と話しかけるか、ステアリングのボタンを押すと機能がアクティブになります。
生成AIに対して一般的に指摘される懸念点にも対策しています。ChatGPTは回答として作成される文章が正確だと限らないことが話題になりました。これに対し、フォルクスワーゲンはChatGPT以外にも複数のソースを基にして、正確で適切な回答を提供するとしています。もう1つはプライバシーです。フォルクスワーゲンによれば、個人情報保護のためChatGPTは車両のデータにはアクセスせず、質問と回答は直ちに削除されます。
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