生成AIで変わる自動車のAIアシスタント、SDVの布石としての役割も:MONOist 2024年展望(2/3 ページ)
ドライバーを理解し、的確にサポートするAIアシスタント。定番ともいえるコンセプトで、まだ実現しきれていない部分も残っていますが、2024年の今、リアリティーを持って改めて提案されています。
フォルクスワーゲンの新しいAIアシスタントは、音声認識技術を得意とするCerence(セレンス)と共同開発しました。セレンスが提供するサービス「Cerence Chat Pro」が採用されています。Cerence Chat Proは、自動車メーカーが迅速かつ容易にChatGPTを車載AIアシスタントプラットフォームに統合するためのサービスで、フォルクスワーゲンが最初の導入先です。
メルセデス・ベンツも、インフォテインメントシステム「MBUX」のバーチャルアシスタントに生成AIを採用すると発表しました。これにより、同社の車載OS「MB.OS」における「最も人間らしいインタフェース」(同社)になると説明しています。バーチャルアシスタントは大規模言語モデルを利用して、クエリやコマンドに応じて友人との会話のように自然な対話を行います。バーチャルアシスタントは一般的な知識に基づいて質問に答える他、意図を明確にして結論を引き出すための質問をすることもできます。
また、ドライバーの行動を学習し、状況の文脈や生成AIの使用により、先読みした提案もするそうです。朝は最新のニュースを流し、仕事終わりには好みのマッサージプログラムを始めます。カレンダーに登録された会議に遅れそうな場合は、車内からダイヤルインで参加することを提案します。ドライバーはこうしたプロセスを自動化することもできるそうです。
メルセデス・ベンツの新しいバーチャルアシスタントは、Unityのゲームエンジンを使った高度な3D CGによるビジュアルや、表現力を持った感情的で自然な音声によって共感を生むとしています。
ヒョンデ(現代自動車)も、「Software-Defined Everything」(SDx)戦略の下でソフトウェアデファインドビークル(SDV)を開発する中で、独自の大規模言語モデルをAIアシスタントやナビゲーションシステムに統合することを目指すと発表しています。
AIアシスタントの先にあるもの
おしゃべり上手なAIアシスタントが完成したとして、単体では自動車の付加価値になるのは難しいと考えられます。AIアシスタント自体はボタンやスイッチと同じくインタフェースの1つで、その先に操作すべき機能があってこそ価値があります。おしゃべりが上手なだけでAIアシスタントを使い続けてもらうことはできるでしょうか? これまでと同じく、目的地を入力したりエアコンの温度を下げたりするだけでよいのでしょうか?
フォルクスワーゲンのAIアシスタントを共同開発したセレンスは、2022年9月からマイクロソフトと協業しています。Microsoft Azure Communication Servicesでセレンスの車載AIアシスタントが利用可能となり、外出中にTeamsを含むマイクロソフトの主要なツールをハンズフリーで操作できるようにしていくための協業です。会議への参加、チャットでのやりとり、メモの作成、会議のリマインダー通知の確認などを、移動中に車内で行うことができるようになります。
メルセデス・ベンツも、ZoomやWebExといった主要なオンライン会議ツール全てを車載OSのMB.OS上で使えるようにします。Booking.com、getAbstract、Just Eat Takeaway.comなどの日常生活で使うアプリや、ソニー・ピクチャーズ エンタテインメントのストリーミングサービスにも対応する予定です。
ヒョンデのSDx戦略には大規模言語モデルの活用が含まれていますが、取り組みの中心はソフトウェアとハードウェアを分離して、独立した更新や進化ができるようにしていくことです。車両開発の柔軟性と拡張性を向上させ、ユーザーを重視した機能の迅速な更新を実現するとしています。車両アプリ市場をサポートするインフォテインメントシステムを開発し、社外の開発者がキラーアプリを作成できるようソフトウェア開発キットも提供する予定です。
ソフトウェアデファインドはAIデファインドになっていく、とヒョンデは考えています。よりよいサービスを提供するために継続的に学習するAIマシンとなってMLOps(Machine Learning Operations、機械学習オペレーション)を展開し、潜在的な問題の予防や迅速な対処、ユーザー体験のパーソナライズ、付加価値の提供などにつなげていく考えです。
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