皮脂のRNA情報を用いて商品とサービスの開発を支援するコンソーシアムを設立:材料技術
花王とアイスタイルはRNAの情報を用いて一般消費者の商品探しを支援する「RNA共創コンソーシアム」を共同で設立すると発表した。
花王と美容プラットフォーム「@cosme」を運営するアイスタイルは2024年3月11日、東京都内で記者会見を開き、「RNA共創コンソーシアム」を共同で設立すると発表した。
なお、花王とアイスタイルが理事となり運営委員会を組織する。幹事会社として、コーセーやマツキヨココカラ&カンパニー、キリンホールディングス、パーフェクト、ヘルスケアシステムズが参画している。
皮脂RNAモニタリング技術
RNA共創コンソーシアムでは、花王が開発した「皮脂RNAモニタリング技術」を中核に据えたビジネスの共創を目指している。皮脂RNAモニタリング技術は、あぶらとりフィルムで顔の皮脂を採取し、その皮脂からRNAを抽出/精製して網羅的にRNAのデータを分析する独自の解析技術だ。
DNAは変化しないその人固有の情報であるのに対し、RNAは体調や食生活、運動、ストレス、紫外線といった環境要因によって日々変化するため、肌や体の状態を知るのに有効とされている。
花王はこれまでに、皮脂RNAにより、体と肌のさまざまな状態を推測できることや、乳幼児アトピー性皮膚炎およびパーキンソン病を早期に判別できる可能性があることなどを報告してきた。
加えて、花王とアイスタイルは2022年から、@cosmeのWebサイトで承諾を得られた1000人以上の会員の皮脂RNAを収集し、皮脂RNAモニタリング技術で似た皮脂RNA特徴を持つ人をグルーピングするとともに、皮脂RNAの特徴別に対象者が投稿した口コミを評価し、好む化粧品の傾向を解析している。
花王では、グルーピングした各グループについて研究を進め、RNA発現の類似度に基づき、「なめらか優位」と「明るさ優位」といった2種類の肌タイプが存在することを発見した。その後、対象者から得られた皮脂RNAのデータと収集した6000人の素顔写真を基にデータベースを構築し、直接顔から皮脂を採取しなければ行えなかった肌タイプの分類技術「肌遺伝子モード判定」を、顔の画像から実施できるAI(人工知能)技術も開発した。
この技術の体験イベントを花王とアイスタイルは開き、@cosmeの会員である59人の顔写真から肌遺伝子モード判定を行い肌の状態を解析した。解析結果で得られた肌タイプの強みデータ「ポジティブファインダー」を対象者に提供した他、肌タイプの情報に基づき対象者と同じ肌タイプのユーザーに高評価な化粧品などを提案した。
両社の調べによれば、参加者の78.3%がこのイベントに「とても満足」と回答しており、「今後も利用してみたいか」という質問に対しては76.7%が「とてもそう思う」と答えている。
これらの技術やデータベース、経験を生かして、RNA共創コンソーシアムは、皮脂RNAモニタリング技術を活用した実証実験の支援と推進を行う。これにより、生活者の悩みに対応する新たなソリューションのデザインと検証を実施。美容やヘルスケアの領域における商品やサービスの開発も後押しする。
同コンソーシアムで取得した実証実験の結果は社会に発信し、実証実験で得られた成果の社会実装も支援する。また、RNAに関するデータ保護とプライバシーについての厳格なポリシーを設定する。
2024年中には、@cosmeに肌タイプ別の商品評価が分かるユーザーインタフェース(UI)を実装する他、スマートフォンのカメラで取得した顔の画像から肌タイプを算出できるアプリケーションもリリースする予定だ。
花王 取締役 専務執行役員の西口徹氏は「今の市場をみると、選択肢が多過ぎて自分に合う化粧品やヘルスケア商品に出会いにくい。RNA共創コンソーシアムでは、無理/無駄のない商品探しをテーマに掲げ、生活者が豊富な選択肢から自分に合った商品を選べるようにする」と語った。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 皮脂RNAを常温保存できる技術を開発、郵送検査サービス提供へ
花王は、皮脂RNAを常温で安定的に保存、輸送できる技術を構築した。同技術を用いた郵送検査サービスの開発をヘルスケアシステムズとともに進めており、2022年内のサービス提供開始を目指す。 - 皮脂RNAデータとAI技術を融合、肌状態を推測するカウンセリングサービスを構築
花王とPreferred Networksは、皮脂RNAモニタリング技術の実用化に向け、「Kao×PFN皮脂RNAプロジェクト」を開始する。第1弾として、AI技術を応用し、将来の肌状態を推測する美容カウンセリングサービスを開発する。 - ゲノム情報を医療に役立てる、マイクロRNAによるがん治療から個別先制医療まで
東京医科歯科大学 難治疾患研究所 分子細胞遺伝分野 教授の稲澤譲治氏が「ゲノム情報を通して人々の幸せに貢献する」をテーマに講演を行った。稲澤氏の研究は、マイクロRNAによるがん治療から、臨床情報とゲノム情報を組み合わせたデータベースを基にした個別先制医療まで広範囲にわたる。 - ウイルスRNAを1個ずつ検出する、安価で小型の検出装置を開発
理化学研究所は、新型コロナウイルス由来のウイルスRNAを1分子レベルで迅速に識別する「opn-SATORI装置」を改良して、安価で小型のウイルスRNA検出装置「COWFISH」を開発した。 - 皮脂中にRNAが存在することを発見、目に見えない肌の状態まで把握可能に
花王は、人の皮脂中にRNAが安定的に存在することを発見し、皮脂中のRNA発現情報を解析する独自技術「RNA Monitoring(RNAモニタリング)」を確立したと発表した。 - 原始の地球にも存在できた、自己複製する短いRNAを発見
早稲田大学は、原始の地球にも存在できた20塩基の短いランダム配列のRNA集団から特定のRNA配列と構造が自発的に出現すること、それらのRNAを基に特定の20塩基のRNAが自己複製することを実証した。