地域や年齢に関係なく自由に移動できる社会を――ホンダ出身スタートアップ「Striemo」:越智岳人の注目スタートアップ(10)(3/3 ページ)
群雄割拠の様相を呈するマイクロモビリティ分野において存在感を放っているのが、ホンダからスピンアウトしたStriemo(ストリーモ)だ。開発のきっかけやこれまでの歩み、今後の展開などについて、創業者の森庸太朗氏に話を聞いた。
マイクロモビリティは地方にこそ届ける意義がある
シニア層のオーダーが想定外に伸びた要因を森氏は以下のように分析する。
「股関節や膝の痛みから長距離の歩行が難しい方や、車椅子を利用するほどではないが、行動範囲が年々狭まっていくという課題を抱えた方からの支持も多かったと思います。実際、『足が上がりづらくなり自転車に乗るのが難しくなったのでこのような乗り物がほしかった』という声もいただきました。また、電動キックボードの購入を反対していた家族から『ストリーモなら大丈夫』と許可が得られたので購入の申し込みをしたという人もいました」(森氏)
さらに、ストリーモは蹴り出し不要で、静止時も運転時も立ったままでよいため、「服装を選ばなくて済む」という利点もある。ユーザーの中には制服を着たままでも移動できるという理由で購入を決めたケースもあったという。
現在は、都市部を中心にキックボードをはじめとするマイクロモビリティが普及しつつあるが、Striemoは地方にもペインポイント(対価を払ってでも解決したい課題)があるとにらむ。
「特定のコミュニティーでの活用に向けた取り組みも開始しています。カーシェアのマイクロモビリティ版として、郊外のマンションにストリーモを住民用として導入するケースもあります。地域に複数のポート(モビリティ専用駐車スペース)を置くような『面』を抑える都市部のビジネスモデルではなく、より強い課題を持つ地域の決まったユーザーの方で共同利用する形もあると考えています」(森氏)
高齢者による事故の影響から運転免許の返納が社会的な注目を集める一方で、地方では利用者の少なさから公共交通機関における赤字路線が続々と廃止され、日常的な買い物や通院にも困る「移動難民」が課題となっている。Striemoはシニア層でも安全に運転しやすいマイクロモビリティを武器に、地域でのラストワンマイルの移動に貢献したいと考えている。
Striemoは今後、一般消費者への直販と並行して法人への販売も進める。顧客や地域のニーズに合わせたカスタマイズモデルの提供も進めつつ、国内での実績が十分に得られたタイミングで欧州へ進出する計画だ。
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