変形バイクを開発するICOMA――金型レス製造で目指す令和のバイクとは:越智岳人の注目スタートアップ(4)(1/3 ページ)
四角形の形状から変形して、電動バイクとして使用できる「タタメルバイク」。開発段階からSNSで話題を呼び、多くのメディアにも取り上げられてきたこのプロダクトを手掛けているのは、タカラトミーで変形ロボットの設計に携わり、ハードウェアスタートアップ2社でエンジニアとしての経験を積んできた生駒崇光氏が代表を務めるICOMAだ。ICOMAが目指すモビリティ社会の未来について取材した。
四角形の形状から変形して、電動バイクとして使用できる「タタメルバイク」が注目を集めている。開発段階からSNSで話題を呼び、イベントに出展すれば大人から子供までブースに人だかりができる。開発しているのは、2020年創業のICOMAだ。タカラトミーで変形ロボットの設計に携わり、ハードウェアスタートアップ2社でエンジニアとしての経験を積んできた生駒崇光(いこまたかみつ)氏が代表を務める。
タタメルバイクの魅力は変形にとどまらない。バッテリーとモーターによる駆動を生かし、非常時には大容量バッテリーとして活用できるなど、新たな需要も取り込む。ICOMAが目指すモビリティ社会の未来について取材した。
タタメルバイク
タタメルバイクの大きさは1230×1000×650mm。折り畳むと680×680×260mmとデスク下にも収納できるサイズになるのが特長だ。エンジンではなくモーターによる駆動で、定格出力は12Ah(約0.6kWh)、最高時速は40km。バッテリーの定格容量は12Ahで30km程度の連続走行が可能であり、追加のバッテリーを増設でき、AC出力も搭載するなどポータブル電源としての利用も想定している。
原付免許(原動機付自転車免許)で運転でき、試作品も公道走行許可を取得している。メディアや業界内外からの注目度も高く、総務省主催の「異能(Inno)vation」への採択や、ピーバンドットコムが主催するハードウェアコンテスト「GUGEN2021」で大賞受賞などの実績を残している。
生駒氏は、長野県安曇野市出身の1989年生まれ。幼い頃からロボットを描くのが好きな少年時代を過ごした。高校卒業後に桑沢デザイン研究所で工業デザインを学び、タカラトミーで変形ロボット玩具のデザインに携わる。自分が子供のときに手にしてきたおもちゃの開発に携わった大先輩たちに囲まれながら、少年時代に夢見た「ロボットを描く仕事」にいそしむ日々が続いた。
その後、プロダクトデザイナーとしてCerevo、GROOVE Xと2社のハードウェアスタートアップでデザインエンジニアとしての経験を積む。2社とも社員20人前後の段階で入社し、100人以上の組織に成長するまで見届けたことで、スタートアップが成長するために必要な要素や起業家としての哲学を数多く学んだという。
タタメルバイクの構想の原型は、Cerevo在職中の2016年にさかのぼる。ホワイトボードに描き起こしたラフスケッチがきっかけだった。その時のスケッチがすぐに試作品になることはなかったが、GROOVE Xに転職し、テクノロジーを用いた機構設計や、プロダクトデザイン業務に携わりながら実現の足掛かりを模索していた。その際に習作として3年前にホワイトボードに描いたバイクの変形機構部分を設計、実際に変形する動画を自身のTwitterに投稿したところ、大きな反響を呼んだ。
これがきっかけとなり、生駒氏は2021年に独立。タカラトミー時代の同僚である小縣拓馬氏とICOMAを創業した。
タタメルバイクの主なユーザー層は、学生や20代の若者を想定している。若者の乗り物離れが加速しているといわれて久しいが、高額なゲーミングPCなどライフスタイルと趣味が一致した製品であれば、若者でも購入している。加えて、どんな時間帯でも思い立った時に自由に近距離圏内を移動でき、ユーザーの好みにデザインをカスタマイズできるというライフスタイルを提案したいと生駒氏は意気込む。
「公共交通機関を使わずに、好きな時間に友達に会いに行けるという気軽さなど、タタメルバイクは若い方にとってメリットの大きい乗り物だといえます。駐車場代も不要で、バッテリーを使うことで従来のスクーターよりも維持費がかからない点も、都市圏に住む人には魅力的だ思います」(生駒氏)
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