日本触媒が海水を淡水にするFOシステムの基幹部材を米国企業と共同開発:材料技術
日本触媒は、米国カリフォルニア州に本社を構えるTrevi Systemsとともに、次世代の海水淡水化/水処理システムである正浸透(FO)システムの基幹部材「浸透圧発生剤」を開発したと発表した。
日本触媒は2024年2月15日、米国カリフォルニア州に本社を構えるTrevi Systemsとともに、次世代の海水淡水化/水処理システムである正浸透(FO)システムの基幹部材「浸透圧発生剤(Draw Solution、以下DS)」を開発したと発表した。
Trevi Systemsは、米国エネルギー省から400万ドルの資金援助を受けて、共同開発したDSを用いて海水から淡水を造るプロジェクトを2022年6月からハワイ島で開始し、全てのデータ取得を2023年9月に完了している。
水不足が深刻化と解決策のFOシステム
近年、世界各地で水不足が深刻化しており、農業用水や飲料水を確保する目的で海水の淡水化が行われてる他、工場の水処理に逆浸透(RO)システムが広く用いられている。ROシステムは、海水や排水に高圧をかけ、RO膜という半透膜で塩分や不純物をろ過する仕組みで、高品質な水が得られる技術として世界的に普及しているが、高圧をかけるために大量の電力を必要とすることが問題となっている。
解決策として、FOシステムが注目されている。FOシステムは、塩分など、水に溶けている成分の濃度が異なる水溶液が半透膜を隔てて接するとき、2つの水溶液の濃度が均一になるように、濃度が低い水溶液から高い水溶液へ自然に水が移動する「浸透」という現象を利用している。
FOシステムによる海水の淡水化では、海水と、海水より高濃度のDS溶液を、FO膜という半透膜を隔てて接触させることで浸透圧を発生させ、海水からDS溶液に水のみが移動する。これにより、大量の水を含んだDS溶液(DSと水が均一に混ざり合った水溶液)が得られる。
2010年に設立されたTrevi Systemsが開発したFOシステムは、加熱により水と分離するDSを使用している点や、分離後のDSをシステム内で再利用する点などが特徴だ。2016年に中東(UAE)で海水から1日当たり50m3の淡水を造る実証試験を行い、電力消費量をROシステムの3分の1程度に低減できることを実証している。
しかし、FOシステムの本格的な普及にはさらなる造水能力の向上が必要で、その実現には基幹部材であるDSの高性能化が重要な鍵となる。そこで、日本触媒はTrevi Systemsと共同でDSの高性能化に取り組み、従来品よりも造水能力を30%向上可能なDSの開発に成功した。このDSは加熱することで水と分離する性質を持つため水だけを取り出せる。
今回、Trevi Systemsがハワイ島で実施した実証試験では、共同開発したDSを用いて、FOプラントで1日当たり500m3の海水淡水化を行った。実証試験の結果、「海水中の65%以上の水を淡水として取得できること」「電力消費量はROシステムと比較して3分の1となること」「設備投資はROシステムとほぼ同等になること」が実証された。
Trevi Systemsはハワイ島の同じサイトで、さらにスケールアップさせた1日当たり6000m3の海水淡水化が行えるFOプラントの稼働も計画している。このプラントでは、濃縮海水をモデル液とした廃液排出ゼロの実証試験や、海水を濃縮してミネラル分を回収する実証試験も予定されている。
Trevi SystemsのFOシステムは中東のような水需要の大きい地域での海水淡水化や、廃液排出ゼロのための濃縮技術としても導入が検討されている。日本触媒では今後のFOシステムの拡大を見据え、DSのさらなる性能向上、高機能化に努める。また、FOシステムをはじめとした技術革新を推進し、水分野におけるさまざまな社会課題の解決に取り組んでいく。
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