日立の米国子会社がパデュー大学のスマート工場ラインにMESを寄贈した理由:スマートファクトリー(2/2 ページ)
日立の米国子会社であるフレックスウェア イノベーションは、米国の大手公立大学であるパデュー大学の工学部が2024年秋入学学生向けから導入するスマート工場ラインの技術パートナーとして参画するとともに、同社のMESソリューションウェアである「SparkMES」を寄贈した。その狙いについて、日立から出向している岩本貴光氏に聞いた。
リクルート対策だけではないFlexwareの狙い
Flexwareが大学向けにこのような取り組みを行うのは初めてのことになる。同社は、米国内製造業への投資再開のトレンドやそのスマート化の需要を取り込むことで展開を拡大してきたが、2022年9月に日立傘下に入ってからも、米国内での事業拡大を進める方針は変わっていない。成長著しいFlexwareが本社を置くインディアナ州で工学系の学生を多数輩出するパデュー大学 工学部の学生を採用して行く上でも、今回のような形で貢献することは重要だと判断した。また、「Flexwareの従業員は半数近くがパデュー大学の出身であり、母校に貢献したいという思いが強いことも背景にあるだろう」(岩本氏)という。
「Smart Learning Factory」の発表式典で行われたラウンドテーブル。右端にいるのが、Flexware 社長兼CEOのスコット・ウィトロック(Scott Whitlock)氏である[クリックで拡大] 出所:日立
ただし、今回の取り組みはリクルート対策だけが狙いではない。FlexwareがSmart Learning Factoryに寄贈したSparkMESは、Inductive AutomationのSCADAプラットフォーム「Ignition」をベースに、画像GUIやデータベースなどMESに必要な要素をまとめたソリューションウェアとなる。Smart Learning Factoryで学ぶ学生の多くが、製造業の生産技術者をはじめとするエンジニアとなることを見込んで、Flexwareの事業の根幹であるSparkMESやIgnitionに慣れ親しんでもらうことも大きな目的となっている。
実際に、今回のSparkMESの寄贈では、60以上ものIgnitionとIoT(モノのインターネット)化に必要なMQTTモジュールのライセンスが提供される。さらに、Flexwareとして、Ignitionを用いる上での認定資格取得のための奨学金も供出する方針である。
また、ノーベル化学賞を受賞した根岸英一氏と鈴木章氏が在籍していたパデュー大学は、日本の政府や企業との連携も重視していることで知られている。2023年7月の「G7広島サミット」では、同大学 学長のムン・チェン氏が来日して、半導体に関する日米大学間協定に署名するなどしている。Smart Learning Factoryの発表式典では、在シカゴ日本総領事の柳淳氏が登壇し、今後の日本企業との連携に関する期待にも言及した。
日立としても、Flexware単独での成長だけではなく、日立のインダストリー事業の北米統括子会社である日立インダストリアルホールディングスアメリカ(Hitachi Industrial Holdings Americas)との連携による北米事業の拡大を目指している。岩本氏は「組み立て製造業で強みを持つSparkMESを、日立のMESである『FactRiSM』と何らかのシナジーを生み出せないかを検討している。また、サプライチェーンなどで力を発揮する計画最適化ソリューションをSparkMESと連携させて、米国内での提案力強化につなげることも考えられる」と述べている。
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