日立大みか事業所は地域全体でCO2削減に挑む、先進工場が目指す脱炭素の在り方:製造業×脱炭素 インタビュー(1/3 ページ)
日立製作所の大みか事業所は2022年6月、「大みかグリーンネットワーク」という構想を発表した。注目したいのが、大みか事業所を中心にサプライチェーン企業や地域企業などを巻き込み、「地域社会全体での成長可能な脱炭素」を目指すというコンセプトだ。スコープ3の対応に頭を悩ませる製造業も多いが、同事業所ではどのように達成を目指すのか。
製造業がカーボンニュートラル達成を目指す上で障壁となりやすいのが、GHG(温室効果ガス)プロトコルにおける「スコープ3」のCO2排出量の削減だ。カーボンニュートラルを実現するには、自社内のCO2排出量を減らすだけでは十分ではない。サプライチェーンの上流から下流まで、自社の事業活動全般を対象に、排出されるCO2をゼロ化する努力が求められている。
このため、メーカーは自社サプライヤーなど各種ステークホルダーと協働しつつ、脱炭素を推進する必要がある。しかし、これを具体的にどのように進めればよいのか、各社手探りで模索する状況が続いている。
その中で、日立製作所の大みか事業所(茨城県日立市)は2022年6月、「大みかグリーンネットワーク」という構想を発表した。同構想のコンセプトとして注目したいのが、大みか事業所を中心にサプライチェーン企業や地域企業などを巻き込むことで、「地域社会全体での成長可能な脱炭素」を目指すとしている点だ。
大みか事業所は電力や鉄道、天候や水道など社会産業インフラの情報制御システムを提供している。IoT(モノのインターネット)活用による生産改革などが評価され、2020年には世界経済フォーラム(WEF)から日本企業の工場として初めて先進工場の「Lighthouse」に選定されるなど、注目度も高い。
大みかグリーンネットワークを通じて大みか事業所は具体的にどのように地域全体の脱炭素を実現しようとしているのか。また、この取り組みを先進工場である大みか事業所で実施する意義とは何か。日立製作所 社会ビジネスユニット 制御プラットフォーム統括本部 シニアストラテジストの入江直彦氏に話を聞いた。
「成長可能な脱炭素」を地域全体で実現する
MONOist 大みかグリーンネットワークとはどのような構想なのか、概要をご紹介ください。
入江直彦氏(以下、入江氏) 日立製作所では「日立環境イノベーション2050」において、2030年度までにスコープ1、2を、2050年度までにスコープ3のCO2排出量ゼロ化を達成するという目標を掲げた。ただし、目標達成のハードルは高い。再生可能エネルギーの調達や創出に加えて、CO2排出量自体を削減する施策も検討しなければならない。
大みか事業所ではもともと、東日本大震災を契機に導入した太陽光パネルや蓄電池などを活用しながら、省エネや創エネ、蓄エネに取り組んできた。CO2排出量の少ないアモルファス変圧器やLED照明、高効率空調設備も導入した他、環境情報ソリューション「EcoAssist-Enterprise」で、電力センサーのデータからCO2排出量を可視化、予測する仕組みづくりにも取り組んでいる。
こうした大みか事業所内の取り組みを外部にも展開しようというのが、大みかグリーンネットワークのコンセプトである。大みか事業所をハブとして、大みか事業所のサプライヤーや顧客などの地元企業、金融機関、公共機関、研究機関や教育機関などのステークホルダーが動的につながり合う。これによって、「成長可能な脱炭素」を地域全体で推進する仕組みを作りたい。
取り組みは2つの軸で進めることを考えている。1つは、日立グループ各社やソリューションパートナーに大みか事業所を実証の場として提供し、環境ソリューションのプロトタイピングを行うこと。もう1つが、エネルギーマネジメントや省エネ、LCA(ライフサイクルアセスメント)の算出、廃棄物削減など、環境価値創出に関わるさまざまなアイデアや最新ソリューションを見学する場を提供することだ。
これらの施策を通じて、地域に根差した脱炭素の取り組みや進め方のアイデアを、大みか事業所でも培っていく。
MONOist 具体的にどのようなソリューションやアイデアを実証する予定ですか。
入江氏 現時点では固め切れていないものの、20個程度のアイデアを検討している。CO2排出量可視化を精緻化する他、EV(電気自動車)や水素の活用、再生可能エネルギーの調達と電力系統の安定化のバランス取りに関する実証を進める。しっかりと固まり次第、幾つかのフェーズに分けて地元企業に公開し、議論を深めていこうと考えている。
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