設計開発におけるクラウドプラットフォーム利用のメリット/デメリットを考える:3D設計の未来(5)(3/3 ページ)
機械設計に携わるようになってから30年超、3D CADとの付き合いも20年以上になる筆者が、毎回さまざまな切り口で「3D設計の未来」に関する話題をコラム形式で発信する。第5回は、クラウドプラットフォーム環境がユーザーのメリットとなるのか? デメリットとなるのか? システム管理とデータ管理の2つの視点から考える。
あらためて、クラウドだと何ができる?
クラウドによるCADデータ管理にフォーカスすると、クラウドプラットフォームへの接続環境を持ち、その利用許可を得ている人は、与えられた権限/制約に応じて、クラウドプラットフォームで一元管理されたデータにアクセスできます。CADデータの編集が可能な人、データを閲覧するだけの人など、その役割に応じた権限の付与が可能です。
CADデータの変更状況の把握や最新のCADデータの入手がリアルタイムに行えるようになるため、チーム設計による並行作業/コラボレーションが可能となります。オンプレミス環境ではできなかったことが、クラウドプラットフォームで実現可能となります。
クラウドプラットフォームのデメリットは?
では、クラウドプラットフォーム利用のデメリットはどこにあるでしょうか? 筆者としては、特に大きなデメリットは感じられませんでした。しかし、クラウドプラットフォームでの運用を開始するに当たっては、検討すべき事項や課題もあります。
以下、「SOLIDWORKS」のクラウドプラットフォーム環境を例に考えます。
- 外部連携や設計開発の効率化の問題とその課題を明確にしてから取り組む必要がある
- PDMシステムと同様のデータ管理運用が可能か、管理方法を検討する必要がある
- デスクトップ版で運用してきた全てのソリューションがクラウドプラットフォームで機能していないことを理解し、デスクトップ環境との共存を検討する必要がある
- 外部設計会社との連携では、相手先にも接続環境を購入してもらう必要がある
- 安定的な通信環境がないと接続できない可能性がある
- フルクラウド版ではないソリューションでは、デスクトップ版と同じPC環境を必要とするものがある
社内の設計開発や製造、各フローの問題から課題を見いだして、クラウドプラットフォームによってどのように課題解決できるのかを組織全体を俯瞰しながら考えることが重要です。これが3D CADを起点とした“設計の再考”につながるはずです。クラウドプラットフォームを使うことが目的ではなく、あくまでも手段であることを忘れてはなりません。
次回は“2024年の展望”についてお話したいと思います。お楽しみに! (次回へ続く)
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