AIの搭載で3D CADはどう進化する? 2つの方向性と今後の期待:3D設計の未来(6)(1/3 ページ)
機械設計に携わるようになってから30年超、3D CADとの付き合いも20年以上になる筆者が、毎回さまざまな切り口で「3D設計の未来」に関する話題をコラム形式で発信する。第6回は、2023年にテクノロジー領域および設計開発領域で話題となったトピックの中から「AI」にフォーカスし、3D設計の未来について考察する。
今回は、2024年の技術トレンドから見る設計開発環境の展望について筆者の考えを述べたいと思います。
2023年によく耳にしたキーワードを振り返る
2019年末から続くコロナ禍が完全に終息したわけではありませんが、丸4年が経過し、5類感染症へと移行した今の生活様式や社会環境は、以前から大きく変わったように感じます。
コロナ禍以前から日本でも注目されてきた「デジタル活用」「DX(デジタルトランスフォーメーション)」といったキーワードですが、皮肉にもコロナ禍によって、一気にその取り組みが加速しました。外出や対面での仕事が制限されたことで、テレワーク/リモートワークが普及し、クラウドやビデオ会議システムといったICT(Information and Communication Technology:情報通信技術)ツールの利用が進み、場所や時間にとらわれない柔軟な働き方が社会全体に浸透していきました。そして、その活用はアフターコロナに突入した現在、しっかりと社会に根付いています。
以下、コロナ禍以降、筆者がよく耳にしたテクノロジー領域および設計開発領域に関わるキーワードを列挙してみました。
- DX
- IoT(モノのインターネット)
- デジタルツイン/バーチャルツイン
- AI(人工知能)/機械学習、生成AI
- クラウドコンピューティング/クラウドプラットフォーム
- シミュレーション/解析
- XR(VR/AR/MR)
- サステナビリティ
このうちAIに着目してみますと、OpenAIが開発した対話型AI「ChatGPT」の登場(2022年11月公開)を機に、第4次AIブームが到来し、2023年はその流れが一気に加速しました。
ガートナージャパンが2023年8月に発表した「日本における未来志向型インフラ・テクノロジのハイプ・サイクル:2023年」によると、2023年の段階で生成AIは「過度な期待のピーク期」に位置しており、世の中の過剰なまでの期待の大きさが示されています。
AIのビジネス活用という点では、ご存じの通り、大手企業を中心に、日本でもオフィス業務の効率化などに生成AIを活用し始めていますし、設計開発の領域においては(以前からですが)3D CADベンダーを中心にAIを活用した機能強化の取り組みが盛んに行われています。
3D CADベンダーによるAI活用の取り組み
次に、3D CADベンダー各社によるAI活用の取り組み、ソリューション展開について、代表的なミッドレンジ3D CADの製品ページ(Webサイト)の情報を基に整理してみました。
Autodesk
3D CAD/CAM/CAE/PCBソリューションの「Fusion」(※注1)において、ジェネレーティブデザイン機能を提供しています。AI技術を活用し、設定した仕様条件(空間要件、材料、製造方法、コスト制約など)を基に、実現可能な多数の設計案を提示してくれます。
※注1:これまで「Fusion 360」の名で親しまれてきましたが、2024年1月31日(日本時間)に「Fusion」(正式には「Autodesk Fusion」)へと名称変更されたようです。本記事でもそれにあわせて「Fusion」と表記しています。
PTC
3D CADソフトウェア「Creo」もAIを活用したジェネレーティブデザイン機能を提供しています。設計者は優先材料や製造工程などの要件と目標をインタラクティブに指定でき、自動的に製造可能な設計バリエーションを作成してくれます。
Siemens Digital Industries Software
3D CADソフトウェア「Solid Edge」ですが、最新版の「Solid Edge 2024」でAIによる設計支援機能が導入されています。例えば、アセンブリ内の部品置き換えの際に、AIアセンブリ関係認識機能がインテリジェントに有効な選択肢を予測して提示してくれます。また、AI搭載のユーザーインタフェースが設計者の利用パターンを学び、最適なコンテキストでカーソル付近に関連コマンドを提示してくれます。
SOLIDWORKS
クラウド/Webブラウザベースのモデリングツール「3D Creator」「3D Sculptor」にも、AIをベースとする設計支援機能「デザインアシスタント(Design Assistant)」が搭載されています。例えば、エッジ選択、合致操作など、時間の要する反復的なタスクを自動化するように設計されており、設計者の生産性向上に寄与します。
以上のように、既にミッドレンジ3D CADの中でもさまざまなAI機能が実現されており、その方向性は大きく「AIによる設計時の操作支援」と「AIによるモデルの自動生成」に分類できます。以降、これらについて具体的な利用イメージを紹介していきます。
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