日本初の民間液体ロケットエンジンは脱炭素、北海道大樹町が民間宇宙産業の中心に:宇宙開発(3/3 ページ)
インターステラテクノロジズが、人工衛星打ち上げ用ロケット「ZERO」開発のためのサブスケール燃焼器燃焼試験を報道公開。本稿では、開発中のロケットエンジン「COSMOS」の詳細や、試験が行われた北海道大樹町の「北海道スペースポート」の状況などについて説明する。
打ち上げは2024年度以降、今後は実機部品の製造も
ISTでは、2024年度以降の打ち上げを目指して宇宙ロケットZEROの開発を進めているが、2023年に入って仕様が変更されたため開発がやや遅れている。変更の理由は、以前の想定より今後主流となる小型衛星のサイズが大きくなってきており、市場ニーズに合わせるためだという。2023年9月には、文部科学省の「中小企業イノベーション創出推進事業」(SBIRフェーズ3)に採択されており、政府需要なども考慮して修正したようだ。
打ち上げ能力は軌道により異なるが、地球観測衛星に用いられる太陽同期極軌道(SSO)の場合で、搭載可能な衛星が150kgから250kgへ増量された。このため機体直径が1.7mから2.3mへ、エンジン推力は1機60kNから130kNへ拡大した。機体構成はほぼ変わっておらず、第1段にはCOSMOSロケットエンジンを9機、第2段には同じCOSMOSロケットエンジンを真空用に一部手直ししたものを1機使用する。推進剤はいずれも液化バイオメタンと液体酸素を用いる。
今回試験した燃焼器を含め、これまでに製作した試作品は仕様変更前のサイズのものが多い。しかし設計や製作の手法は大きく変わらないので、一から作り直しということはなく、試作の成果を踏まえてサイズアップしていくとのことだ。
「ZERO」の機体を溶接するのに用いる回転式の治具。アルミ合金の板材を筒状に丸めて溶接する作業は、IST工場内で行われる。工場は観測ロケット「MOMO」の量産と宇宙ロケット「ZERO」の開発が可能な広さを持つが、「ZERO」の量産を開始するにはさらに広い工場が必要だという[クリックで拡大]
アジア初の公共宇宙港「北海道スペースポート」も始動
ISTのロケット開発と並行して、大樹町多目的航空公園を宇宙開発拠点へ発展させる「北海道スペースポート(HOSPO)」事業も本格化している。2021年には大樹町などが出資する運営企業「SPACE COTAN株式会社」が設立され、アジア初の公共宇宙港の建設に着手した。
ZEROの発射場となるLC-1は、LC-0に隣接して建設が始まっている。北海道スペースポートの施設として整備されるため、建設費はISTではなく大樹町が負担している。現在ある1000mの滑走路の300m延伸工事を含む第1期整備費用23億円は、半額を内閣府地方創生拠点整備交付金で、残りをふるさと納税で賄うため、町民負担はない。
LC-1に設置するZERO発射のための設備はISTが用意するが、北海道スペースポートは「公共宇宙港」なので他社も利用が可能で、実際に台湾のTiSPACEが2024年に北海道スペースポートでの観測ロケット打ち上げを計画している。さらに2期工事として、複数社が同時にZEROクラスのロケットを整備できる施設を有する、LC-2の建設も計画されている。
LC-0の写真(「MOMO」打ち上げ当時)とLC-1、LC-2の想像図。LC-1の完成時期は2024年度となっている。LC-2には3つのロケット組立棟が用意され、最大3社あるいは3機のロケットの同時整備が想定されている[クリックで拡大] 出所:SPACE COTAN
ISTと北海道スペースポートが名実ともに「宇宙産業」となる日が、ついに視野に入ってきた。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 乾坤一擲の賭けに勝った観測ロケット「MOMO」、2年ぶり打ち上げ成功にみる実力
ロケットベンチャーのインターステラテクノロジズは2021年7月、観測ロケット「MOMO」の打ち上げを約1年ぶりに実施した。7月3日の7号機、同月31日の6号機と2機連続での打ち上げ成功という成果は、同社にとって乾坤一擲の賭けともいえる機体の全面改良という決断によるところが大きい。 - 観測ロケット「MOMO」の打上成功から何が生まれるのか、次なる挑戦は「ZERO」
2019年5月4日、インターステラテクノロジズ(IST)は観測ロケット「MOMO」3号機の打ち上げに成功した。これまで、創業者である堀江貴文氏の名前をとって“ホリエモンロケット”とも呼ばれてきたMOMOの打ち上げ成功は、今後どのようなことにつながっていくのだろうか。 - 衛星軌道投入ロケット「ZERO」は“みんな”で開発、MOMO2号機の失敗が教訓に
ロケット開発ベンチャーのインターステラテクノロジズ(IST)が、観測ロケット「MOMO」の開発状況を報告するとともに、衛星軌道投入ロケット「ZERO」の開発に向けた事業体制について発表した。 - ISTの次世代ロケットは「DECA」、1段目ロケット再使用で打上コストを10分の1に
インターステラテクノロジズ(IST)が、同社の事業戦略を説明するとともに、小型衛星を一体運用するコンステレーション用大型ロケット「DECA」の計画に着手したことを発表した。 - 小型人工衛星用ロケットエンジンのガスジェネレーターの燃焼試験に成功
インターステラテクノロジズは、同社の小型人工衛星用ロケット「ZERO」のエンジンにおいて重要部品となるガスジェネレーターの燃焼試験に成功した。2023年度には、エンジン統合試験を実施する計画だ。 - 小型人工衛星打ち上げロケットの推進剤タンクを実機サイズで試作
インターステラテクノロジズは、小型人工衛星打ち上げロケット「ZERO」のタンクを対象に、実際の使用環境条件に合わせた実機サイズの推進剤タンクを試作した。ZEROは、2023年度の打ち上げを目標としている。