日本初の民間液体ロケットエンジンは脱炭素、北海道大樹町が民間宇宙産業の中心に:宇宙開発(2/3 ページ)
インターステラテクノロジズが、人工衛星打ち上げ用ロケット「ZERO」開発のためのサブスケール燃焼器燃焼試験を報道公開。本稿では、開発中のロケットエンジン「COSMOS」の詳細や、試験が行われた北海道大樹町の「北海道スペースポート」の状況などについて説明する。
牛のふん尿から作られるバイオメタン燃料
燃料は4回とも、液化バイオメタン(LBM)を使用している。これは大樹町内の酪農家で、乳牛のふん尿を発酵させて生産したメタンガスを精製、液化したものだ。化石燃料である液化天然ガス(LNG)と異なりカーボンニュートラルであることに加え、エタンやプロパンなどメタン以外の炭化水素を含まない、99.9%以上純粋なメタンガスであることが特徴だという。
LNGは炭化水素の比率が産地や生産ロットによって異なるが、都市ガスや発電などに使用する場合は大きな問題にならない。しかしロケットエンジンに使用する場合は、そのわずかな差がロケットエンジンの性能に悪影響を与える。LBMの採用は「大樹町産エネルギーを大樹町のロケットで地産地消」というだけでなく、宇宙ロケットにとって有利な点が大きいということだ。今回の燃焼試験は、このバイオメタンが理論通りの性能を発揮するかについても確認される。
青い炎はメタンの証、白い光は超音速の証
燃焼試験は、燃焼器を横向きに設置した状態で行われた。ロケットは縦向きに打ち上げられるため完成までには垂直設置の試験も必要だが、試験設備が大掛かりになるため、簡素な横向き試験も一般的に行われる。高温の燃焼ガスで床面コンクリートが破損しないよう、燃焼器の前の床面には鉄板が敷かれ、燃焼試験中は散水された。また周囲の草地に引火しないよう、鉄製のデフレクター(偏向板)も設置された。いずれも必要十分な仮設設備という印象で、低コスト化を志向する民間宇宙開発らしさを感じる。
燃焼試験中は安全のため、試験設備から500m以内への立ち入りができない。このため、試験設備の操作やデータの監視などは、試験場から離れた指令所で行われる。MOMOの打ち上げでは数人が入る小さなプレハブ小屋という趣きだったが、今回は試験場から5kmほども離れたIST本社工場付近に指令所が設置され、30人ほどのスタッフが管制室に入っていた。MOMOの時代からは大幅に規模拡大した印象だ。報道陣は管制室に隣接する見学スペースで燃焼試験を見守ることになったが、管制室内は撮影禁止とされた。
試験設備全景。オレンジ色のエンジン架台の下には消火栓のような散水管が並び、試験時には黒い鉄板の上に散水する。右端の斜めの板は、草地への引火を防ぐために噴射ガスを上へ逸らす偏向板。奥に見えるのは「MOMO」発射設備[クリックで拡大]
予定の14時ちょうどに、遅れなく燃焼試験が行われた。点火の約10秒前に、敷鉄板への散水が開始。点火すると、最初はオレンジ色の炎が、火炎放射器のように噴出した。しかし2秒ほどでオレンジ色は消え、記事冒頭の写真のように、都市ガスのガスコンロと同じメタンガスの青い炎が、ガスバーナーのように細く伸びた。炎の中に断続的に見える白く輝いた部分はショックダイヤモンドと呼ばれ、超音速で噴射するロケットエンジンやジェットエンジンの排気ガスに見られる現象だ。10秒の燃焼のあと、すっと消えるようにエンジンは停止した。
今回はエンジン部品の試験のため、ロケット打ち上げのような「成功」「失敗」という観点はないが、予定の秒数燃焼して停止し、データも取得できたので、試験としては成功といえるという。今後2024年1月末まで、条件を変えるなどしながら試験を繰り返すとのことだ。
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