島津製作所の新型GC-MSは業界最小でイオン源のメンテ時間は1分、耐久性は2倍:研究開発の最前線(2/2 ページ)
島津製作所は、業界最小でイオン源のメンテ時間が1分の新型ガスクロマトグラフ質量分析計「GCMS-QP2050」を発売した。
「GCMS-QP2050」の今後の展開
島津製作所では、GCMS-QP2050で「これまで提案してきた市場への再プロモーション」と「今後、拡大が期待される市場へのプロモーション」を行う。
これまで提案してきた市場への再プロモーションでは、「飲料水や環境試料に含まれるVOCs(揮発性有機化合物)あるいはSVOCs(準揮発性有機化合物)の分析」「食品中残留農薬の分析」「電気電子機器中の有害物質(フタル酸エステル類)の分析」を対象にGCMS-QP2050を提案する。
飲料水や環境試料中のVOCs、SVOCsは世界各国で規制されている。北米やアジアの受託分析機関、公設試験研究機関では米国環境保護庁(EPA)の規制に準拠した分析が実施されている。しかし、検体数が多いため分析装置には耐久性が求められる他、多数の装置を稼働させなければならず、スペースを確保しやすいコンパクトな分析装置が必要となっている。
食品中残留農薬は国や地域ごとに評価方法や基準値を定めた規制が定められている。規制対象となる農薬の数や食品の種類は継続して増加しており、測定方法の省力化と迅速化が求められている。さらに分析メソッドの作成やデータ解析の省力化が重要とされている。
フタル酸エステル類は欧州で「電気電子機器に含まれる特定有害物質使用制限指令(RoHS II指令)」で規制されている。フタル酸エステル類の分析は欧州やアジアの受託分析機関やメーカーが実施しているが、検体数が多く、分析装置の耐久性が求められている。そこで、島津製作所は各領域のニーズに応えられるGCMS-QP2050を提案する。
今後、拡大が期待される市場へのプロモーションでは、「ケミカルリサイクル製品中の不純物の分析」「マイクロプラスチックの分析」「代替航空燃料や合成燃料など新エネルギーの品質管理」を対象にGCMS-QP2050を訴求する見通しだ。
ケミカルリサイクル製品中の不純物の分析に関して、現在、循環社会に向けてプラスチックのリサイクルが進んでいる。回収された廃プラスチックはリサイクルで再生し再度製品として利用されている。その過程で不純物混入の有無を検査しなければならず、業界ではGC-MSの利用を検討中だ。新規市場のため、初心者でも使いやすい操作性と低濃度まで検出できる感度を持つGC-MSが必要だとみられている。
マイクロプラスチックの分析について、近年は環境試料中のマイクロプラスチックの健康影響が危惧されている状況だ。そこで、関連する業界ではマイクロプラスチックの分布調査や添加物の定性分析でGC-MSの利用を検討している。環境試料には夾雑物が多く含まれているためGC-MSには耐久性が求められる。
新エネルギーの品質管理に関して、国際民間航空機関は化石燃料の代替として高いCO2の削減効果が期待される持続可能な航空燃料(SAF)を検討している。SAFを利用するためには認証や規格に準じた品質が必要であり、確認方法としてGC-MSの活用が検討されている。
これらの分野での解決策として島津製作所はGCMS-QP2050を提案する。加えて、提案活動の一環として、中南米におけるASMS(米国質量分析学会)の展示会(2024年1月21〜24日)や北米におけるラボラトリー機器の展示会「PITTCON 2024」(2024年2月24〜28日)、ドイツにおける分析機器の見本市「analytica 2024」(2024年4月9〜12日)と再資源化技術の見本市「IFAT 2024」(2024年5月13〜17日)、インドネシアにおけるラボラトリー機器の展示会「Lab Indonesia 2024」(2024年4月24〜26日)に出展し、GCMS-QP2050を披露する見込みだ。日本と中国のユーザーを対象にWebinarも開催しGCMS-QP2050の機能を紹介する。
高倉氏は「当社ではGCMS-QP2050の年間販売台数目標として1500台を掲げている。GCMS-QP2050が対応していないオプションもあるため、そのオプションに対応するGCMS-QP2020 NXの販売も継続する」と述べた。
GCMS-QP2050開発の背景と経緯
GC-MSの市場規模は約6億3500万ドルで、市場成長率は4.4%。GC-MSを活用するユーザーは、受託分析機関、公設試験/研究機関、教育機関、メーカー(食品、化学、製薬、石油業界)となっている。
こういった状況を踏まえて、島津製作所は、50年以上にわたり時代の変化に応じた装置を開発/提供してきた。2001年には、現行機のGCMS-QP2020 NXにも採用されているプラットフォームを開発し、これを備えたGC-MS「GCMS-QP2010」を発売した。
このように展開する中で、世界中のユーザーから「GC-MSに期待すること」に関して意見が集まった。具体的には、受注分析機関からは「分析初心者でも使用できる操作性」「分析作業の効率化」、公設試験/研究機関からは「ダウンタイムの削減」「感度等の基礎性能の向上」、教育機関からは「設置スペースの削減」「コストパフォーマンスの向上」、メーカーからは「技術継承の促進」「分析作業の効率化」といったコメントが寄せられた。
これらのコメントから、島津製作所は、GC-MSには、「感度などの基礎性能の向上とダウンタイムの削減」「初心者でも使用できる操作性と効率的な作業性」「省スペースやコストパフォーマンスに優れた持続可能性」が求められていることを認識し、このニーズを踏まえて、GCMS-QP2050の開発に踏み切った。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 30%の省エネ化を実現し水素ガスに対応したGC、小型で2種類のカラムを収納可能
島津製作所は、「JASIS 2023」(2023年9月6〜8日)に出展し、新製品のガスクロマトグラフ「Brevis GC-2050」やGC質量分析計(GC-MS)「GCMS-QP2050」、マイクロプラスチック自動前処理装置「MAP-100」を披露した。 - 液体クロマトグラフにセルロースファイバー強化難燃複合樹脂を採用
島津製作所は、分析計測機器の液体クロマトグラフ「Nexera」シリーズの構成ユニット15種類に、セルロースファイバー強化難燃複合樹脂を採用した。石油由来樹脂の使用を削減しつつ、強度と軽さ、難燃性を兼ね備えている。 - 紫外線照射ロボットによる除菌システムの製品化を目指して業務提携
島津製作所は、Shyld AIと技術提携契約を締結した。人が立ち入った範囲を紫外線照射ロボットが効率的に除菌するシステム「UVシュート」の製品化を目指す。 - 強度試験を全自動化する万能試験機自動化システム、島津製作所が中国で発売
島津製作所は、識時(上海)自動化科技と共同で開発した金属材料測定向け「万能試験機自動化システム SAGX-V」シリーズを中国で発売した。自動車、部品、鉄鋼などのメーカーへ販売する。 - 島津製作所が関東初の大規模研究開発拠点を開所、キングスカイフロントに
島津製作所が、関東地区初の大規模研究開発拠点となる「Shimadzu Tokyo Innovation Plaza(殿町事業所、Shimadzu TIP)」を報道陣に公開。約100人の従業員が入居し、投資金額は入居する建屋の改造費や約100台の分析計測機器などを含めて約20億円。 - 島津製作所が食品/飲料メーカーの製品開発や研究を支援するラボ開設
島津製作所は、農業・食品産業技術総合研究機構と共同で、食品、飲料メーカーの製品開発や研究を支援する「NARO島津テスティングラボ」を開設した。食品、飲料メーカーの研究者はラボに設置された最新の分析機器を研究に利用できる。