ギ酸を用いた連続水素製造プロセスによる発電システムを開発:材料技術
産業技術総合研究所は筑波大学と共同で、フロー式によるギ酸を用いた連続水素製造プロセスを開発し、得られた水素で安定した発電ができることを実証した。ギ酸水溶液を固定化触媒に通し、連続的に水素を製造する。
産業技術総合研究所(産総研)は2023年10月20日、筑波大学と共同で、フロー式によるギ酸を用いた連続水素製造プロセスを開発し、得られた水素で安定した発電ができることを実証したと発表した。ギ酸水溶液を固定化触媒に通すことで、連続的な水素の製造が可能となった。
従来のバッチ式によるギ酸からの水素生成は、ギ酸が水素に変換されていくに従ってギ酸水溶液を添加する必要があり、長時間の連続添加によって反応液が蓄積すると、最後は容器からあふれてしまうという課題があった。
そこで、バッチ式からフロー式へ転換するため、研究グループはギ酸から水素をつくる触媒を見直し、イリジウム錯体触媒をポリエチレンイミンに固定化した。錯体が配位子から外れても別の配位子が錯体を再び捉えることで活性を保ち、触媒の耐久性が向上する。また、ギ酸を選択的に吸収するポリエチレンイミンの性質により触媒が高活性化し、従来の触媒と同等あるいはそれ以上の活性であることも明らかとなった。
この固定化触媒を用いたフロー式連続水素製造の検証では、2000時間を超える連続運転が可能であることが実証された。得られた水素に含まれる一酸化炭素含有量は0.1ppm以下で、燃料電池自動車用水素燃料の品質規格をクリアしている。
さらに、得られた水素による固体高分子形燃料電池の発電試験では、5時間以上、出力が低下することなく安定して発電ができることが確認された。
今後は、得られた水素の発電以外の用途への展開や、副産物である二酸化炭素を回収しギ酸へ再生する技術の開発に取り組んでいく。
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