ホンダのコンセプトカーに採用された、リアルな再生アクリル樹脂材:ジャパンモビリティショー2023
ホンダが「JAPAN MOBILITY SHOW 2023(ジャパンモビリティショー、旧東京モーターショー)」で披露したコンセプトカーには、三菱ケミカルグループとホンダが自動車向けに共同開発しているアクリル樹脂材が採用されている。
ホンダが「JAPAN MOBILITY SHOW 2023(ジャパンモビリティショー、旧東京モーターショー)」(プレスデー:10月25日〜26日、一般公開日:10月28日〜11月5日、東京ビッグサイト)で披露したコンセプトモデル「SUSTAINA-C Concept(サステナ・シー コンセプト)」と「Pocket Concept(ポケット コンセプト)」には、リサイクルされたアクリル樹脂材(PMMA、ポリメチルメタクリレート)が採用されている。
ホンダ 社長の三部敏宏氏はジャパンモビリティショーのプレスカンファレンスにおいて、「モビリティに使用する素材や資源には限りがあり、今のような作り方やリサイクルだけでは将来的にモビリティを作り続けていくことが難しくなるときが来る」とコメントしており、「自動車に使う素材を全てサステナブルなものにする」というホンダの目標を具現化したコンセプトモデルだ。
このアクリル樹脂材は三菱ケミカルグループとホンダが自動車向けに共同開発している現実味のある素材だ。これまで、アクリル樹脂は分別回収やリサイクル技術の難しさから、焼却して熱エネルギーを回収、利用するにとどまっていたが、三菱ケミカルグループでは2025年度にアクリル樹脂のリサイクルプラントの稼働を目指している。また、リサイクルする使用済みアクリル樹脂材の回収スキームについても以前から準備を進めてきた。
既に水平リサイクルに手応え
2021年5月、三菱ケミカルやホンダ、北海道自動車処理協同組合が共同で、使用済み車両のランプカバーなどからアクリル樹脂材を回収し、元の用途で再び使用する水平リサイクルの実証実験を行うことを発表。異物が混入しない回収方法やバージン材と同等の品質を達成する技術の確立、樹脂粉砕品を高効率に輸送するスキームの検証などを行った。
三菱ケミカルは上記と同時期に実証設備を建設。連結子会社の三菱ケミカルメタクリレーツや、マイクロ波化学が協力している。実証設備はマイクロ波化学の敷地内に設けた。ホンダやマイクロ波化学と協力して実施した実証実験では、テールランプからテールランプにアクリル樹脂を水平リサイクルし、従来品に劣らない品質のリサイクル品が得られることを確かめた。
実証したリサイクル技術により、石油由来のアクリル樹脂材を製造して使用後に焼却した場合と、使用済みアクリル樹脂材を回収してリサイクルした場合を比較すると、製品ライフサイクル全体の温室効果ガスの排出量は半減できる見込みだ。また、三菱ケミカルでは、アクリル樹脂のリサイクルに関して、リサイクル原料やリサイクルされたアクリル樹脂材の品質に関わる複数の特許を国際出願している(日本では複数の特許権を取得済み)。
2023年2月から三菱ケミカルグループは、東京海上日動火災保険や、全損と認定された車両の処分を手掛けるABTとともにテールランプなどに含まれるアクリル樹脂材を回収する実証実験を始めた。関東地区で1000台の使用済み車両からアクリル樹脂材を回収し、オペレーションや素材の品質、コストなどの検証を行った上で2024年度にも取り組みを全国に広げる計画だ。
金属にはない、あたたかみや柔らかさ
ジャパンモビリティショーでホンダが披露したコンセプトモデルに採用されたアクリル樹脂材は、車両のドアやボンネット、フェンダーなどに適用できるよう、ゴム粒子を混ぜて耐衝撃性を向上している。また、アクリル樹脂の透明性の高さや調色のしやすさを生かしてコンセプトモデルの意匠に反映させた。
塗装なしに光沢のある表面を実現できるため、車両の外板に使用すれば塗装工程で発生するCO2の排出削減につなげることもできる。当然、車体の大幅な軽量化も図れる。また、用途は車両の外板に限定せず、幅広く検討する。ジャパンモビリティショーでホンダの説明員は「金属にはない、アクリル樹脂材のあたたかみや柔らかさはさまざまな可能性を持っている」と述べた。
アクリル樹脂は、自動車のランプカバーの他、看板や水族館の水槽、塗料、建材などに幅広く使用されており、グローバルでの需要は300万トンを超える。コロナ禍では感染対策用のパーテーションとしてのニーズも高まった。
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