「これはCSR活動ではない」、スズキが取り組む牛糞由来のバイオガス:ジャパンモビリティショー2023
スズキは「JAPAN MOBILITY SHOW 2023」において、天然ガスとガソリンのバイフューエル仕様のインド市場向け「ワゴンR」を展示した。
スズキは「JAPAN MOBILITY SHOW 2023(ジャパンモビリティショー、旧東京モーターショー)」(プレスデー:10月25日〜26日、一般公開日:10月28日〜11月5日、東京ビッグサイト)において、天然ガスとガソリンのバイフューエル仕様のインド市場向け「ワゴンR」を展示した。
スズキが2022年にインドで販売した新車の20%は、展示したインド市場向けワゴンRのような天然ガス車だ。既に一定の需要があるパワートレインに対し、牛糞由来のバイオガスを提供することでカーボンニュートラルを目指す。このカーボンニュートラル戦略を受けて、スズキは牛糞からバイオガスを取り出すプラントをインドで構築する。インドでは既に他社の数カ所のプラントで同様の方法でバイオガスが生産されており、スズキも参入する格好だ。
インドでスズキはバイオガスの他にもエタノール配合燃料やハイブリッド車(HEV)、電気自動車(EV)などさまざまな燃料やパワートレインによってCO2排出を削減していく方針だ。また、インド政府は2070年までにカーボンニュートラル実現を目指している。
農家の所得向上、有機肥料の活用拡大も同時並行
ガスの発生量は物によって異なり、牛糞は比較的少なく、残飯など食料由来の方がガスを多く取り出せる。牛糞のメリットの1つは、牛が草食なので残飯よりも内容が安定している点だ。また、インドには3億頭の牛がいるため、まとまった量の牛糞が調達できるのも強みだ。プラントでは豚や鳥の糞にも対応する。
牛糞を使うのは、農家の所得向上につなげるという狙いもある。スズキのバイオガス事業では、農家から牛糞を買い取って回収する。値段は1kg当たり2円ほど。農家にとっては新たな収入源になり、農村経済の活性化を図ることを目指している。なお、1日に牛10頭から発生する牛糞が、自動車1台の1日分の燃料になるという。
スズキのバイオガス事業は、牛糞を買い取り、牛糞から取り出したガスとガスを取り出した後の残りかすである有機肥料を売ることで収益を確保する。「CSR活動ではないので、事業採算性が課題になる。規模を拡大していくには売り上げを立てられる事業モデルを確立しなければならない」(スズキの説明員)。
スズキがこれから構築するプラントはバイオガス工場である一方で、肥料工場でもある。バイオガスの原材料となる牛糞の購入コストやバイオガスの需要は収益性確保のネックにならないが、ガスを取り出した後に生まれる有機肥料の販売にハードルがあるとしている。
インド政府は有機肥料の使用を促進しているが、農業の現場が急に有機肥料に切り替えるのは難しい。有機肥料に変更することで収穫量が減少するという課題もあるが、有機肥料の流通が進まなければプラントで生産量を拡大することができない。インド国内で有機肥料は関心を持たれているので、輸出ではなく国内での消費拡大に取り組むという。
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