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宇宙での走行を実現するオール金属タイヤ、接地体はらくだの肉球をヒントに開発ジャパンモビリティショー2023

ブリヂストンは「JAPAN MOBILITY SHOW 2023」で開発を進める月面調査用タイヤのプロトタイプや給電タイヤを披露した。

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 ブリヂストンは、「JAPAN MOBILITY SHOW 2023(ジャパンモビリティショー、旧東京モーターショー)」(プレスデー:10月25日〜26日、一般公開日:10月28日〜11月5日、東京ビッグサイト)で、開発を進める月面調査用タイヤのプロトタイプや給電タイヤを披露した。

2本のタイヤが1本になったダブルタイヤ構造も採用

 同社は2019年4月に宇宙航空研究開発機構(JAXA)やトヨタ自動車とともに「国際宇宙探査ミッション」に挑戦することを発表した。このミッションで、トヨタ自動車とJAXAは、燃料電池(FC)と自動運転技術を組み合わせたモビリティ「有人与圧ローバ(愛称はLunar Cruiser、ルナクルーザー)」の研究開発を進めている。有人与圧ローバ用タイヤの開発はブリヂストンが担っており、その取り組みで試作されたのが月面調査用タイヤのプロトタイプだ。


月面調査用タイヤのプロトタイプ[クリックで拡大]

 月面調査用タイヤプロトタイプは全体が低温に強いステンレスなどの金属で作られている。これは、月面環境の気温が−170〜120℃と寒暖差が激しい他、宇宙線と呼ばれる高エネルギーの放射線も降り注いでいるため、通常タイヤで採用されているゴム材料では長期使用に耐えられず壊れてしまうからだ。

 構造には弾性車輪構造を採用している。弾性車輪構造は、硬い金属のステンレスでありながらも、スプリングのような形状によりしなやかにたわむことができる特殊なもので、1万kmの走行を求めるミッションにも対応する強靭さを備えている。ブリヂストンの説明員は「通常のタイヤは充填された空気で車体を支えているが、宇宙では空気が使用できないため、金属を骨格とした弾性車輪構造を導入した」と話す。

 大型トラックのように1輪につき同サイズタイヤを2本使用するダブルタイヤ構造も採用している。ダブルタイヤ構造により一般乗用車の約6倍もの接地面積で圧力分散を実現。「月面はレゴリスと呼ばれる非常に細かい砂地に覆われており、小さい接地面積のタイヤだと高い接地面圧が生じ砂に埋まり動けなくなってしまう。解決策としてダブルタイヤ構造を採用した」(同説明員)。

 加えて、砂漠で荷物を運ぶラクダのふっくらとした足裏からヒントを得て、タイヤが接地する際に、より圧力分散できるように、スチールウールのようなふわふわとした金属素材の接地体をタイヤ全面に配置している。

 現在、ブリヂストンはこのタイヤをテスト車両に装着し、砂地や不整地、斜面での走行テストを行っている。宇宙空間での実験はできないため、打ち上げまでに周到な開発/試験が求められている。同説明員は「月面調査用タイヤプロトタイプの課題の1つは、全体に金属を使用しているため、数十kgとかなり重いことだ。現在、軽くするために研究/開発を行っている」と述べた。

自動車で唯一地面と接するタイヤ内に受電コイルを設置

 給電タイヤは専用の道路からインホイールモーターへのワイヤレス給電を実現するもので中継コイルと受電コイルから成る。中継コイルは、道路内の送電コイルと受電コイルの間に位置するタイヤ内とホイール内側の2カ所に設置されており、送電コイルと受電コイルの間隔を狭め、給電効率を高めている。


開発中の給電タイヤ[クリックで拡大]

 受電コイルはホイールの内側に設置されている。展示担当の説明員は「受電コイルをタイヤおよびホイール外部に搭載すると、道路の段差などで受電コイルと送電コイルの間隔が変動し、給電効率が悪くなるが、自動車で唯一地面と接するタイヤ内に受電コイルを設置することで、給電効率を向上させている」とコメントした。


給電タイヤの構造[クリックで拡大]

 なお、ブリヂストンは、東京大学大学院 新領域創成科学研究科の堀/藤本研究室が展開する、科学技術振興機構(JST)の未来社会創造事業研究プロジェクト「電気自動車(EV)への走行中給電が拓く未来社会」に参画している。加えて、多くの企業/研究機関と連携しながら「受電から駆動までのすべてをタイヤのなかに」をコンセプトとして電気自動車に搭載されるインホイールモータへの走行中ワイヤレス給電を実現する給電タイヤの開発を進めている。

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