半年勉強するだけでもマテリアルズインフォマティクスは可能、TBMの挑戦:マテリアルズインフォマティクス最前線(3)(2/2 ページ)
本連載ではメーカーが注力するマテリアルズインフォマティクスや最新の取り組みを取り上げる。第3回は環境配慮素材「LIMEX」と再生素材「CirculeX」を展開するTBMの取り組みを紹介する。
CirculeXの生産を効率化するシステムとは?
MONOist なぜCirculeXの生産を効率化するシステムを開発しようと考えたのでしょうか。
神戸晴夏氏(以下、神戸氏) 当社では、2022年に竣工したリサイクルプラントの横須賀工場(神奈川県横須賀市)で、企業や一般家庭から廃プラスチックを受け入れ、選別/洗浄/粉砕/成形加工している。具体的には、従来のリサイクルプラントの多くは回収する廃プラスチックを限定しているが、横須賀工場では、オフィスや工場から排出される事業系の廃プラスチックに加えて、一般家庭から排出される雑多な廃プラスチックも積極的に受け入れている。
しかし、一般家庭から排出される廃プラスチックは、レジ袋や食品トレーなどでそれぞれが形状や厚み、物性が異なる他、汚れが付いているケースもあり、ペレット化に向けた加工で物性などを均一化することが難しい。そのため、顧客のニーズに適したペレットを製造するためには時間を要する。加えて、現状は技術者の勘や経験を頼りに加工を行っているが、技術者の高齢化と若い技術者不足が進んでおり技術伝承で課題がある。
MONOist なるほど。一般家庭から排出される雑多な廃プラスチックへの対応や技術伝承で課題があったんですね。解決策として開発されたCirculeXの生産を効率化するシステムの機能について教えてください。
神戸氏 本システムは、取得した廃プラスチックにおける異物の量や組成などのデータ、廃プラスチックがペレットになる前の中間品(グラッシュ)の性状データ、その中間品が押出成形機内で混錬されている際の押出機内のセンサー値も得る。これらのデータを基に完成するペレットの性状を予測できる。予測結果から、物性に合わせてペレットの自動選別が行えるようになる見込みだ。これにより、手作業でペレットを評価することなく顧客の要望に適したペレットを選びやすくする。
加えて、最適な調合条件や成形条件を導き出すことができると考えられる。これにより、経験が浅く技能が未熟な技術者でも優れた加工が行えるようになり、技術伝承の課題を解消できるとみている。
MONOist 2つの課題を解決するシステムとなっているんですね。開発したソフトやシステムの今後の展開について教えてください。
服部氏 当社はTBM Pledge 2030の目標を実現するために、今後進出する国も含めた50カ国で、LIMEXやCirculeXの地産地消モデルを構築しなければならない。しかし、国や地域ごとに調達できる石灰石や無機フィラーの性状が異なるため、国内と同様の成形方法では高品質なLIMEXを生産できないだろう。
そこで、今後は、現在開発を進めているLIMEX専用の画像解析AIソフトやレコメンドシステムで、優れたLIMEXを製造できる成形条件を導き出し、これらの取り組みにより得られた各システムや成形条件などとともに、LIMEXの製造ライセンスを海外企業の素材工場に提供することで、さまざまな地域で優れたLIMEXを製造できると見込んでいる。
同様に、CirculeXの生産を効率化するシステムも製造ライセンスとともに海外企業の素材工場に提供し、多様な地域で良質なリサイクルペレットの生産を実現していく。これらの取り組みによりTBM Pledge 2030の目標の実現を後押ししたい。なお、LIMEX専用の画像解析AIソフトやレコメンドシステム、CirculeXの生産を効率化するシステムの完成は2025年頃を目指している。
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