半年勉強するだけでもマテリアルズインフォマティクスは可能、TBMの挑戦:マテリアルズインフォマティクス最前線(3)(1/2 ページ)
本連載ではメーカーが注力するマテリアルズインフォマティクスや最新の取り組みを取り上げる。第3回は環境配慮素材「LIMEX」と再生素材「CirculeX」を展開するTBMの取り組みを紹介する。
国内のメーカーでは、製品のニーズの多様化や開発期間短縮の影響で、扱う素材の高品質化と開発期間の短縮が求められている他、海外拠点でも国内製品と同様の品質を実現することが必要となっている。しかし、研究者や技術者のノウハウに依存したこれまでの手法では対応が難しい状況だ。
解決策の1つとして、材料開発の速度と精度を向上させるために、マテリアルズインフォマティクス(MI)やプロセスインフォマティクス(PI)を活用する企業が増えつつある。そこで本連載では、国内製造業におけるMIやPIの最新の取り組みを紹介する。
第3回で取り上げるのは、石灰石を主原料とした環境配慮素材「LIMEX(ライメックス)」と、使用済みプラスチックなどを原料とした再生素材「CirculeX(サーキュレックス)」を展開しているTBMだ。同社は、国内に加え、英国やタイ、中国やインドなどの販売代理店やベトナムの現地法人を介して東南アジアを中心に海外でもこれらの素材を展開している。
同社 経営管理部 DX Promotion Project Leader Business Administrationの服部祐介氏と同部 プロダクションデザイナー Production Designer Business Administrationの神戸晴夏氏に、MIの導入経緯や取り組み、今後の展開について聞いた。
短期間でPythonを習得
MONOist MIを導入した経緯について教えてください。
服部祐介氏(以下、服部氏) 現在、TBMではミッション「TBM Pledge 2030」で、国内で2019年度にマテリアルリサイクルされたプラスチック量に匹敵する、100万トン(t)のLIMEXとプラスチックの回収/再資源化を2030年までに達成することを目標に掲げている。そのため国内製造拠点での生産の効率化や50カ国でLIMEXとプラスチックを回収/再資源化する仕組みを構築しなければならない。しかしながら、従来と同様の方法では目標の達成は難しい。
そこで国内拠点や、今後設置を予定している海外拠点でLIMEXとCirculeXの生産を効率化するためにMIの導入を決定した。そして、私(服部氏)、当社 経営管理部 DX Solution Architect Business Administrationの及川卓哉、神戸でMIを推進するチームが組織された。このメンバーで半年間の期間をかけて、米国のMIベンチャー企業であるEnthought(エンソ―ト)の教育プログラム「マテリアルズ・インフォマティクス・アクセラレーションプログラム」を受けた。
このプログラムでは最初の3カ月間はプログラミング言語「Python」を学び、残りの3カ月は、Enthoughtの担当者と相談しながら、テーマを決めてPythonベースのAI(人工知能)開発に着手した。私はLIMEX専用の画像解析AIソフトを、及川はLIMEXの生産を安定させるレコメンドシステムを、神戸はCirculeXの生産を効率化するシステムの開発をテーマに掲げた。
MONOist なるほど。TBM Pledge 2030で掲げた目標を達成するためにMIを導入したんですね。次に、LIMEX専用の画像解析AIソフトとLIMEXの生産を安定させるレコメンドシステムの機能について教えてください。
服部氏 私が開発中の画像解析AIソフトは、LIMEXの画像データからLIMEX内におけるフィラーの分散状態や空隙(くうげき)などの形状の解析を可能にする。現在は、機械学習に必要なデータを集めるために、工場で生産されるLIMEXの画像を同ソフトで解析し、データベースへの集約を進めており、製造条件にフィードバックする手法を検討中だ。
この大量の解析データを及川が開発中のレコメンドシステムにインプットすることで、機械学習を行い、優れたフィラーの分散状態や空隙の形状を実現する成形条件を導き出すことができると考えている。
なお、LIMEXは、炭酸カルシウムなどの無機物を50%以上含む無機フィラー分散系の複合素材で、石灰石を主原料に採用しておりリサイクルにも対応している。生産は白石工場(宮城県白石市)と多賀城工場(宮城県多賀城市)で行っている。両拠点で製造されるLIMEXの品質をより高めるための生産体制の構築が求められており、解決策として、LIMEX専用の画像解析AIソフトとLIMEXの生産を安定させるレコメンドシステムの開発を進めているというわけだ。
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