へレウスがAD法をサービス化、試験装置を用意し基礎研究から試作まで対応:材料技術
へレウスは、社内スタートアップのヘレウス・ハイパフォーマンスコーティングスがエアロゾルデポジション法を用いた基礎研究から試作請負いまでを扱ったサービスの提供を開始したことを発表した。
へレウスは2023年9月1日、東京都内でプレスイベントを開き、社内スタートアップのヘレウス・ハイパフォーマンスコーティングスがエアロゾルデポジション(AD)法を用いた基礎研究から試作請負いまでを扱ったサービスの提供を開始したことを発表した。
コーティングエリアが最大50×300mm2の大型の試験装置を用意
ヘレウス・ハイパフォーマンスコーティングスは、常温および多種材料でのコーティング技術のサービスを行っているスタートアップで、エレクトロニクスや自動車などの分野でのセラミックコーティングを室温で実現している。
同社が提供するサービス群に追加されたAD法は、対象の基板に常温でさまざまな材料をコーティングでき、基板への熱ダメージがない。さらに、1μ〜70μmの厚みで高品質なコーティングが行える一方で、過度な投資も必要ない。
へレウス 事業開発室 シニアマネージャーの伊東和重氏は「AD法の利用にあたっては、1ミリバール(mbar)の低真空を発生する真空ポンプ、キャリアガス、コーティング材の粒子がサブμm〜数μmのエアロゾルを発生する装置、デポジションチャンバーで構成される装置を使用する。この装置により、秒速数百mまで加速されたコーティング剤の粒子を対象の基板表面に吹き付け、高い運動エネルギーにより粒子を破砕し、表面で緻密な層を形成して、コーティングする」と語った。
同社では、AD法で使える新しいコーティング材や基板を発見する目的で継続的に試験を行っている。既に、複数のセラミックス、金属、混合物のコーティング材とさまざまな基板がAD法で使えることを確認している。加えて、同社では、AD法を用いた基礎研究から試作請負いまでに対応するために、コーティングエリアが最大50×50mm2の小型試験装置に加えて、同エリアが最大50×300mm2の大型のものもそろえた。
AD法の活用事例について
AD法の活用事例として、高温センサー、モーター用積層磁石、窒化ケイ素(Si3N4)、半導体製造分野のプラズマエッチング工程が取り上げられた。
高温センサーでは、搭載されている白金電極を保護するために使われているシール材にAD法で酸化アルミニウム(α-Al2O4)をコーティングすることで、白金電極とシール材との間に保護膜を形成し、シール材による電極の汚染を防いだ。
さらに、同社は、AD法で酸化アルミニウムをシール材にコーティングした高温センサーと物理気相成長(PVD)で酸化アルミニウムをコーティングした高温センサーを比較した。その結果、AD法を使用した高温センサーは、測定精度が向上し、950℃まで安定した性能を発揮することを確認した。伊東氏は「このシール材でのAD法の活用により、当社はAD法を優れたコーティング技術と判断し、サービス化を検討した」と話す。
モーター用積層磁石では、使用する磁石にAD法でセラミックスと接着剤をコーティングして磁石同士を密着させ積層することで、永久磁石の高特性化に伴う渦電流により生じる磁場の影響を減らした。窒化ケイ素ではAD法で数μmの薄膜コーティングを実現した。これまで、抗ウイルス性や抗菌性の特性を持ち生体適合性がある窒化ケイ素の薄膜コーティングでは、溶射などでは成膜した際に高温になり分解してしまうことが、PVDやCVD(化学気相成長)では成膜の厚みが数nm程度が限界になることが課題になっていたが、これを解消した格好だ。
半導体製造分野でのプラズマエッチング工程では、プラズマエッチングチャンバーの露出部にAD法で酸化イットリウム(Y2O3)をコーティングすることにより、腐食性の強いプロセスガスにより破片が発生してプラズマエッチングチャンバーの露出部に規格外の不良部品が発生するという問題を解決した。
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