曲げた後に元に戻せる金属材料「アモルファス合金」、へレウスが国内で事業化:材料技術(1/2 ページ)
へレウスが2022年から国内での本格的な展開を始めたアモルファス合金事業について説明。ジルコニウムなどを主成分とするアモルファス合金は、高い曲げ強度とひずみ性能を同時に実現するなど従来の金属材料にない特性を持つ他、同社がアモルファス合金向けで初めて実用化した3Dプリンティング技術によって軽量化なども可能になるという。
へレウスは2022年5月18日、東京都内で会見を開き、同年から国内での本格的な展開を始めたアモルファス合金事業について説明した。ジルコニウム(Zr)などを主成分とするアモルファス合金は、高い曲げ強度とひずみ性能を同時に実現するなど従来の金属材料にない特性を持つ他、同社がアモルファス合金向けで初めて実用化した3Dプリンティング技術によって軽量化なども可能になるとする。既にゼンハイザーのイヤフォンなどをはじめ欧州の製造業を中心に採用が広がっており、日本国内では産業用ロボットメーカーや電子部品メーカーなどに向けて部品を高度化する用途などで提案を強化したい考えだ。【訂正あり】
ドイツで1660年に地場の薬局として創業したヘレウス(Heraeus)だが、現在は貴金属や石英ガラスなどを中心に取り扱っており、2020年の売上高は315億ユーロ(約4兆2800億円)に達するグローバル材料メーカーとなっている。国内では1987年から日本法人を設立して事業を展開し、会見の会場となった東京・護国寺の本社には工業用特殊光源や導電性ポリマーのアプリケーションセンターを設置するなどしている。
へレウス日本法人 代表取締役社長の山内秀人氏は「へレウスは、未来技術の具現化に向けて社内のスタートアップ事業に注力している。今回紹介するアモルファス合金はそのうちの一つで、2017年に事業を立ち上げ、2019年に法人化したヘレウス・アムロイ(Heraeus Amloy)の技術になる。実は、アモルファス合金の研究において、日本の大学や研究機関の関わりは深い。その事業化の一つの形であるヘレウス・アムロイの技術を日本で提案できることは大変うれしい」と語る。
山内氏の話にある通り、アモルファス合金の研究を大きく発展させたのは、東北大学金属材料研究所の教授を務めた増本健氏をはじめ日本国内の大学や研究機関の役割が大きい。現在は、アモルファス合金からその発展形となる金属ガラスの研究も進んでいる。
溶かして液体にした合金を急速に冷やす
アモルファス合金とは、溶かして液体にした合金を毎秒100〜106Kの速度で急速に冷やすことで、原子がバラバラな構造になった状態の合金のことである。金属や合金が液体から固体になるとき、通常の速度で冷やすと原子が周期的に整列した結晶構造をとるのが一般的だ。結晶構造の金属や合金は、結晶の粒や相、格子欠陥などに起因する変形を起こしやすい。一方、アモルファス合金は、原子がバラバラで結晶構造のような格子欠陥がなく均一になるため、変形が均一に起こるとともに、高い硬度や弾性といった結晶構造の金属や合金にはない特性が得られる。
ヘレウス・アムロイが提供するアモルファス合金は、ジルコニウムを主成分に銅やアルミニウム、ニッケルチタン、ニオブなどから組成されており「AMLOY-ZR01」「AMLOY-ZR02」「AMLOY-ZR03」という3つのグレードを用意している。特徴としては、生体適合性、結晶構造金属材料の10倍に達する弾性、鋼の2倍となる降伏強度、0.5%以下という収縮性の低さ、0.05μmRaが可能な良好な表面仕上げ性能、85GPaと低いヤング率、チタンのグレード5に匹敵する高耐食性などである。
特に興味深いのがこれまでの金属材料では難しかった特性を両立できる点である。例えば、曲げ強度を示す降伏強度はチタン系の金属材料を大きく上回る一方で、ひずみ性能を示すヤング率は小さい。このことは、ぐっと曲げた後に元に戻すことができることを示している。また、硬度についても刃物などに使われるマルテンサイト系ステンレス鋼と同等以上である。
【訂正】へレウスからの申し入れにより記事初出時に掲載していた図版の一部を削除しました。
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