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覚悟を決めて値段を2倍に、「越前打刃物」の柄を蒔絵でモダンに彩る夫妻の挑戦ワクワクを原動力に! ものづくりなヒト探訪記(8)(7/7 ページ)

本連載では、厳しい環境が続く中で伝統を受け継ぎつつ、新しい領域にチャレンジする中小製造業の“いま”を紹介していきます。今回は越前打刃物の柄を製造している山謙木工所さんを取材しました。

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「包丁」をお椀や万年筆に並ぶ工芸品に

――今後、ショップやこの建物を使って挑戦してみたいことはありますか?

由麻さん これからは、もっと若手包丁職人の包丁も取りそろえていきたいと思っているんです。今は数が少ないですが、数年後には独立を考える若手も増えるのではないかと予想しています。その時に、越前刃物の今を知ってもらえるような場所にしていきたいです。

由麻さん 最初から、ワークショップやカスタムオーダーなどの挑戦をしてきましたが、夫婦でなんとかやっている状態でした。来年(2024年)の春に1人スタッフを迎える予定があるので、ここでハード面をしっかり整えて、時々なんかやっている場所ではなく、「ここに行けばこういうことをしてもらえるんだ」とはっきり認識してもらえるような場所にしていきたいと思います。


製造過程で発生する木端[クリックして拡大] 出所:ものづくり新聞

自社ブランド「enie(エニエ)」として由麻さんが手掛けたオリジナルアクセサリー[クリックして拡大] 出所:ものづくり新聞

――由麻さんが今後力を入れていきたいことはありますか?

由麻さん 柄や製造中にどうしても発生する木端を生かした、オリジナルアクセサリーブランドにもっと力を入れていきたいと思います。柄の製造では、木に少しでもささくれがあるとその木材は使えず、木端が発生してしまいます。廃棄も保管もコストがかかるため、木端の詰め放題イベントを開催したり、オリジナルアクセサリーに使ったりしています。今はまだ駆け出しなので、これからもっと深めていきたいです。

 あとは、春から漆塗りに学生さんを1人迎え入れることになったんです!

――由麻さんと一緒に漆をやる人が増えるんですね! その方は学生さんなんですね。

由麻さん そうです。最初は「誰でも一緒にやってみようよ」という気持ちで、身近な知り合いにアルバイトをお願いしたこともあったのですが、漆の扱いを知らない人に教えるのは想像以上に難しいと感じました。もし、私が子育てを終えた立場なら、子供を見るような気持ちで見守れるかもしれないですが、自分も子育て中だし、未熟で、未経験の人にイチから教えることは、今の時点では難しいと思いました。そこで、まずは漆を専門に学んできた方と一緒に頑張って、ゆくゆくは地元の未経験の人にも仕事を教えられるようになれたらいいなと思っています。

――楽しみですね! 最後に、夢や達成したいことなどはありますか?

由麻さん 工芸と一口にいっても、棗(なつめ)※2やお椀、万年筆など、確立されているジャンルがさまざまあります。いつか、そこに包丁というジャンルが入ったらいいなという野望があります。もちろん、みなさんが生活の中で使うものは作り続けるのですが、美術や工芸を学び、漆をやっている私が、包丁の世界に関わるチャンスがあるなら、そういう挑戦もしていけたら面白いのではないかと思っています。

※2:茶器の一種


オリジナルアクセサリーの展開も構想するお二人[クリックして拡大] 出所:ものづくり新聞

株式会社山謙木工所
所在地:福井県越前市池ノ上町46-1-10
代表取締役:山本卓哉
会社HP:山謙木工所柄と繪



あとがき

 取材させていただいた柄と繪は洗練されていながらも、木のぬくもりが感じられる空間でした。山謙木工所のある池ノ上町周辺には、かつて何軒か柄を作る木工所があったそうですが、今ではそのほとんどが廃業してしまったとのことです。

 今回の取材は、ものづくり新聞編集部の20代女子コンビでした。由麻さんとちょうど同世代で、同じ目線になりながらさまざまなお話を聞くことができました。記事には出ていませんが、雑談中に「産地に入り、モノづくりをしながら人生設計をしていく」ことについて盛り上がりました。由麻さんもそうだったように、家業がある方と結婚したら、「自分もその仕事をすることになるだろう」と心のどこかで決意を固める瞬間があるのではないかと想像しました。

 山謙木工所のように、これまでの経験を生かしながら、新たな取り組みにも挑戦できる環境は、人生設計を描き始めた20代(特に女子)にとって、とても魅力的に感じます。産地でご結婚され、子育てをしながらモノづくりの道も突き進む由麻さんの言葉に、興味津々な私たちでした。

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著者紹介

ものづくり新聞
Webサイト:https://www.makingthingsnews.com/
note:https://monojirei.publica-inc.com/

「あらゆる人がものづくりを通して好奇心と喜びでワクワクし続ける社会の実現」をビジョンに、ものづくりの現場とつながり、それぞれの人の想いを世界に発信することで共感し新たな価値を生み出すきっかけをつくりだすWebメディアです。

2023年現在、100本以上のインタビュー記事を発信し、町工場のオリジナル製品開発ストーリー、産業観光イベントレポート、ものづくり女子特集、ものづくりと日本の歴史コラムといった独自の切り口の記事を発表しています。

編集長

伊藤宗寿
製造業向けコンサルティング(DX改革、IT化、PLM/PDM導入支援、経営支援)のかたわら、日本と世界の製造業を盛り上げるためにものづくり新聞を立ち上げた。クラフトビール好き。

記者

中野涼奈
新卒で金型メーカーに入社し、金属部品の磨き工程と測定工程を担当。2020年からものづくり新聞記者として活動。

佐藤日向子
スウェーデンの大学で学士課程を修了。輸入貿易会社、ブランディングコンサルティング会社、日本菓子販売の米国ベンチャーなどを経て、2023年からものづくり新聞にジョイン。



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