検索
連載

中小製造業の生きる道、「研究開発型」で道を切り開く由紀精密の挑戦JIMTOF2020(1/2 ページ)

2020年11月16〜27日にオンラインで開催された「第30回 日本国際工作機械見本市(JIMTOF 2020 Online)」において、主催者セミナーとして由紀精密/由紀ホールディングス代表取締役社長の大坪正人氏が登壇。変革を続ける由紀精密の挑戦の道のりと、ファクトリーサイエンティスト養成などの今後の展望を紹介した。本稿ではその内容を紹介する。

Share
Tweet
LINE
Hatena

 2020年11月16〜27日にオンラインで開催された「第30回 日本国際工作機械見本市(JIMTOF 2020 Online)」において、主催者セミナーとして由紀精密/由紀ホールディングス代表取締役社長の大坪正人氏が登壇。「ものづくりで夢を叶える〜経営危機から航空宇宙産業を支えるイノベーター企業へ・挑戦し続ける由紀精密〜」をテーマに講演し「町工場ならではの成長戦略」を掲げ、変革を続ける由紀精密の挑戦の道のりと、ファクトリーサイエンティスト養成などの今後の展望を紹介した。本稿ではその内容を紹介する。

発注を受けるだけの下請け企業からの脱却

photo
由紀精密/由紀ホールディングス代表取締役社長の大坪正人氏

 由紀精密は1950年の創業。金属の精密切削加工を得意とし、大手製造業の下請け部品工場としてねじの製造などを手掛けてきた。高度経済成長の波に乗って成長を続け、カード式公衆電話部品のカードリーダーに用いられるシャフト製造で売り上げを伸ばした。しかし、携帯電話の登場でそのニーズも落ち込み、特にバブルの崩壊とともに経営業態は悪化した。一時、光ファイバーコネクター部品の製造でしのいだが、ITバブルの崩壊でその需要も落ち込み、経営状態は厳しくなっていったという。

 2006年に社長に就任した大坪氏は、こうした経営危機を乗り切る施策を試行錯誤するものの「下請け業には作るものを自分で決められない」という最も大きな課題があった。そこで下請け業から脱し、自社での製品開発を行う「研究開発型町工場」を目指すこととした。

 しかし従来は、発注元から図面により指示された製品を作るやり方だったため、独自の製品開発を行う仕組みも弱かった。営業職の社員もいなかったことから、顧客のニーズもよく分からない状況で、次に何をすれば良いのかが分からない状況だった。

 そこで、同社では顧客に「由紀精密の強みは何か」を聞くアンケートを取った。その結果、「(製品の)品質に優れている」という意見が最も多かった。その意見を基に「品質の強みを生かせる領域は何か」を考えた。由紀精密の当時の顧客企業はほぼ全てが電機業界向けだったが、高い品質が問われる航空宇宙業界へ進出することを決めたという。

 ただ、方向性は決められても実現するのは簡単なことではない。航空宇宙業界への参入障壁は技術面や規制面でもかなり高く「じっくりと戦略を立てて長期の視点で望んだ」と大坪氏は語る。

 まず、航空宇宙業界との接点が全くなく、ニーズも分からないことから、2008年に航空宇宙業界の展示会への出展を行った。由紀精密でそれまでに作ってきた部品や技術力を紹介するとともに、航空宇宙業界におけるニーズや要件などについて探っていった。また、こうした動きに合わせ、それまでは大量生産を想定した社内のモノづくりの仕組みとなっていたものを、小ロット対応が可能な社内生産管理システムへと見直し、品質検査の強化など、IT化を含めた設備投資を行った。さらにJIS9100(航空宇宙品質マネジメント)を取得し、社員の意識改革にも積極的に取り組んだ。

 こうした結果、「最初は一部の部品にとどまったが、現在は数十点から百点を超える飛行機の部品を作れるようになっている」(大坪氏)とし、海外のエンジンメーカーに採用されるまで実績が上がってきたという。

宇宙機にも進出

 さらに、宇宙機にも進出した。まず、日本のベンチャー企業で、超小型人工衛星の開発製造及び超小型衛星を利用したソリューションの提案を手掛ける「アクセルスペース」に一部品から供給を始めた。

 その後、由紀精機の機械設計と精密加工などが評価され、現在では人工衛星の筐体製作まで担当するなど製品の幅が広がってきている。これらが評価され他企業からの受注も増え続けている。今では同社が筐体を作成した人工衛星6機が宇宙で活動しているという。

 最近では新しい宇宙関連プロジェクトにも携わっている。「生命は宇宙空間を移動するのでは」という仮説に基づき、宇宙空間に漂うちりの中から生命の根源を探すプロジェクト「たんぽぽ計画」に加わり、宇宙空間で使用する集塵機や小型改修カプセルの一部部品(ノズル)の製作を行った。

 さらに「宇宙開発の危機を解決したい」ということで、宇宙開発の障害となることで問題視されている宇宙のごみ(スペースデブリ)の回収プロジェクトにも力を注いでいる。大坪氏の大学の先輩でもある岡田光信氏が創業した「アストロスケール」に協力し、由紀精密として資本業務提携を行い、機器の部品作成などに協力しているという。宇宙のごみをキャッチできる実証衛星を打ち上げる準備を行い、現在はその最終段階に入っているという。

photo
たんぽぽ実験装置「捕集パネル」のエアロゲルを組み込む構造体部分の製造を担当 出典:由紀精密

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

       | 次のページへ
ページトップに戻る