日本の製造業の現状とその打開策【後編】:アイデアを「製品化」する方法、ズバリ教えます!(12)(1/4 ページ)
自分のアイデアを具現化し、それを製品として世に送り出すために必要なことは何か。素晴らしいアイデアや技術力だけではなし得ない、「製品化」を実現するための知識やスキル、視点について詳しく解説する連載。第12回は「日本の製造業の現状とその打開策」の【後編】として、部品メーカーにフォーカスした内容をお届けするとともに、“これからのモノづくりの方向性”について筆者の考えをお伝えする。
前回に引き続き「日本の製造業の現状とその打開策」についてお届けする。【前編】とした前回は、“3つの製造業”のうち「設計メーカー」と「組み立てメーカー」にフォーカスした。最終回となる今回は、その【後編】として、残りの製造業である「部品メーカー」を取り上げるとともに、記事の後半では“これからのモノづくりの方向性”をテーマに筆者の考えをお伝えする。
日本の部品メーカーの現状
日本の部品メーカーは「匠の職人のいる町工場」といわれ、その優秀な技術と部品はテレビ番組などでもたびたび紹介されるほどで、アップルをはじめとする海外メーカーがわざわざ日本まで買い付けに来るほどだ。
その一方で、現在こうした部品メーカーの廃業が後を絶たない。部品メーカーが直面している課題は次の3つだと考えられる。
- 注文が来ない
- 企業の弱体化
- DX(デジタルトランスフォーメーション)に乗り遅れそう
1.注文が来ない
「1.注文が来ない」の原因としては、次の3点が挙げられる。
1つ目は、中国に仕事が奪われているという現実だ。【前編】でお伝えしたように、現在、日本の組み立てメーカーが担ってきた仕事の多くが中国に移管されている。組み立てメーカーは多くの部品を部品メーカーから購入するが、日本にある部品メーカーから部品を購入すると輸送費と日程が多くかかってしまう。そのため、中国の組み立てメーカーは、中国国内の、できるだけ自社の近場にある部品メーカーから部品を購入しているのだ。技術的に難易度が高い部品は日本から輸入することもあるが、一般的に製品全体で見るとそれはごく一部であって、ほとんどの部品は中国の部品メーカーから購入しているといってよい。最近では、中国部品の品質もどんどん向上しているため、さらに中国部品の比率は高まるであろう。そうなってくると、日本の部品メーカーの仕事はさらに少なくなる。
2つ目は、部品メーカーが設計メーカーの下に系列化されており、黙っていても仕事を受注できたため、貪欲に営業をかける体質がないことが挙げられる。そんな部品メーカーも現在は中国に仕事を奪われ、自ら顧客探しをしなくてはならないのだが、そう簡単にうまくいくはずもない。ドイツをはじめとする欧州の部品メーカーの海外輸出量と比較して、日本の部品メーカーの輸出量が極端に少ない一因はここにあるのかもしれない。
3つ目は、自社製品をアピールするスキルがないという点だ。そもそもエンジニアは自社の技術をアピールすることが苦手な傾向にあり、さらに日本人そのものが控え目な民族であることもそれに拍車を掛けている。中国人は80点の製品であっても100点としてアピールするが、日本人は100点の製品であっても80点と控え目にアピールする。これでは中国に勝てない。
このことは、技術展示会などで説明員の話を聞いてみるとよく分かる。特に、説明員がその展示企業のエンジニアである場合には、同じエンジニア出身の筆者でさえ何を言っているのか分からないことが多い。もちろん言葉は分かるのだが、話の内容が顧客視点ではなく、最初から技術の詳細説明をするだけで、そもそも何を作っている企業なのか分からないこともある。高い技術の製品や部品を作っていれば、自然と売れる時代はとうの昔に終わっている。エンジニアも説明とアピールするスキルを磨く必要がある。
2.企業の弱体化
「2.企業の弱体化」については、そもそも従業員が少ない上に、高齢化が進んでいることが原因として挙げられる。日本の部品メーカーの90%以上が従業員数9人以下といわれている。日本の人口減少、さらには技術系企業への就職希望者数の減少も重なり、“若手が増えず、従業員の高齢化だけが進んでいく”といった状況が生まれている。
筆者は以前、材料がチタンで全長約3mm/直径約5mmの円筒形の、片側だけ凸のドーム状になっている部品を月4万個で発注しようとしたが、ほとんどの部品メーカーから断られてしまった。理由は「これを作れるだけのマンパワーがない」ということだった。
3.DXに乗り遅れそう
「3.DXに乗り遅れそう」の意味は次の通りである。昨今、製品の開発設計フローにおいて「DXの導入」が叫ばれている。メディアに登場するDXの意味は明確になっておらず、多くの企業がさまざまな取り組みを行っている。DXをうたいITシステムを製造業に導入しようとするIT企業は、開発設計の上流である企画から下流の生産とサービスまでの全フローで、3D CADデータとBOM(部品表)を一貫して活用していくシステムを提案している。だが、実際に設計者の描いた3D CADデータを一番活用しているのは部品メーカーに他ならない。にもかかわらず、そのシステムには部品メーカーの存在が全く現れないのである。主な理由としては、そのシステムが数千万円以上と高額であり、中小企業の部品メーカーでは資金的に購入できないため、設計メーカーのみをターゲットにしているからだと考えられる。よって、部品メーカーは設計メーカーの決めたシステムにならう形になるのだ。
現在、多くのキャッシュレスシステムが乱立し、店舗はその多くのシステムに対応すべく、いろいろな種類のリーダーなどの設備を導入しているが、これと同じ現象が製造業のDXでも起こり得るのである。従業員数9人以下の、数多くの日本の町工場をまとめる形でシステム設計を行うのは実際には困難であるが、日本の製造業における大きなDX化の流れの中に、部品メーカーを含める発想がないのは残念である。よって、部品メーカーは社内の効率化を行ったり、他社と連携したりして、各社独自でDX化を細々と進めているのである。
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