パナソニックHDがFujisawa SSTで発電するガラスの実証実験を開始:材料技術
パナソニックHDは、神奈川県藤沢市の街区「Fujisawaサスティナブル・スマートタウン(Fujisawa SST)」に新設されたモデルハウス「Future Co-Creation FINECOURTIII」で、「ガラス建材一体型ペロブスカイト太陽電池」のプロトタイプの実証実験を開始した。
パナソニック ホールディングス(パナソニックHD)は2023年8月31日、神奈川県藤沢市の街区「Fujisawaサスティナブル・スマートタウン(Fujisawa SST)」で会見を開き、Fujisawa SST内に新設されたモデルハウス「Future Co-Creation FINECOURT III」で、「ガラス建材一体型ペロブスカイト太陽電池」のプロトタイプの実証実験を開始したと発表した。【訂正あり】
2024年春に1.1×1.8mまでのガラス建材一体型ペロブスカイト太陽電池を製造可能に
今回の実証では、Future Co-Creation FINECOURT IIIの2階のバルコニーにガラス建材一体型ペロブスカイト太陽電池のプロトタイプを5枚設置し、目隠し性と透光性を両立させたデザインや長期設置による発電性能や耐久性などを検証する。1枚当たりの定格発電容量は約13Wで、5枚で65Wとなる他、配線はルーフバルコニーの手すりに仕込んでいる。
実証期間は2023年8月31日〜2024年11月29日で、使用するガラス建材一体型ペロブスカイト太陽電池のプロトタイプは15cm角のペロブスカイト太陽電池モジュールを3枚つなげ、水と酸素を通さないガラス基板で挟んで複層ガラス化している。このガラス基板により、酸素と接触することで発電力が低下し、水に触れることでペロブスカイト層が溶出するというペロブスカイト太陽電池の欠点を克服しているという。
パナソニックHD テクノロジー本部 マテリアル応用技術センター 1部 部長の金子幸広氏は「現在は、15cm角のモジュールを3枚つなげガラス基板で挟み複層ガラスとしている。しかし、2024年の春にパナソニックHD本社(大阪府門真市)内にサイズが1.1×1.8mまでのガラス建材一体型ペロブスカイト太陽電池を製造できるパイロット設備を構築し、1つのモジュールでガラス建材一体型ペロブスカイト太陽電池を作れるにようにする。これにより、3つモジュールをつなげることで現状のプロトタイプでは生じている接続線を無くせる見通しだ」とコメントした。
【訂正】初出時に、金子氏のコメントである「15cm角のモジュールを3枚つなげ」の部分で15ミリ角と誤った内容を掲載していました。お詫びして訂正致します。
ガラス建材一体型ペロブスカイト太陽電池は、パナソニックHDが開発した独自のインクジェットプリンターを活用して、ガラスの表面にペロブスカイト太陽電池を印刷している。印刷後、レーザー加工で透明化/集積化することで、透過度をコントロールできるようにしている。ペロブスカイト太陽電池を印刷したガラスの上にガラスを貼り付けることで、複層ガラス化あるいは合わせガラス化する。
また、太陽光パネルは、設置場所が平地や建物の屋上に限定され、設置面積を確保することが難しいが、ガラス建材一体型ペロブスカイト太陽電池はオフィスビルの窓などの垂直面に取り付けられるため、これまでは難しかったエリアでの創エネを実現できる。
「太陽光パネルの市場では、大量に生産して日本の製品より安価に販売する中国に競争で負けてきた。しかし、ガラス建材一体型ペロブスカイト太陽電池は、レーザー加工で透過度をコントロールしてデザイン性を高められる他、当社のインクジェット技術によりさまざまなサイズのガラスに対応できる。このカスタマイズ性を武器に、上市後は、大量に生産して安価に販売するという中国の土俵で競争せず、適正な価格で販売していきたい」と金子氏は販売戦略についても語った。
ガラス建材一体型ペロブスカイト太陽電池の詳細はこちらから
Future Co-Creation FINECOURT IIIの概要
三井不動産レジデンシャルが開発したFuture Co-Creation FINECOURT IIIは、木造2階建て、建物面積116.09m2、間取り4LDKのモデルハウスだ。建物のコンセプトは、Fujisawa SSTのコンセプト「生きるエネルギーがうまれる街。」を反映し「住めば自ずとエネルギーがうまれる家」としている。建物内には、ガラス建材一体型ペロブスカイト太陽電池だけでなく、電気自動車のバッテリーに備えた電力を仮定へ供給するパナソニック製のV2H蓄電システム「eneplat」などのエネルギーシステムも設置している。
加えて、建設時、居住時、改修時、廃棄(解体)時にできるだけCO2削減に取り組み、太陽光発電などを利用した再生可能エネルギーの創出も行うことにより、ライフサイクル(すまいの生涯)を通じてCO2の収支をマイナスにするLCCM(ライフサイクルカーボンマイナス)住宅の認定も取得している。
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