パナソニックHDがペロブスカイト太陽電池で発電するガラスを開発、透過度を調整可能:材料技術
パナソニック ホールディングスは、開発中の「ガラス建材一体型ペロブスカイト太陽電池」の概要について発表した。
パナソニック ホールディングス(パナソニックHD)は2023年8月31日、開発中の「ガラス建材一体型ペロブスカイト太陽電池」の概要について発表した。
ペロブスカイト太陽電池は、有機物と無機物から成るハイブリッドの結晶構造を発電部に採用した太陽電池で、加工性、柔軟性、低温形成に優れる有機材料の特徴と、半導体特性を有し高いエネルギー変換効率を誇る無機材料の特徴を兼ね備えている。
30cm角の発電効率は17.9%でさまざまなサイズに対応
ガラス建材一体型ペロブスカイト太陽電池は、パナソニックHDが有機ELディスプレイの生産で培った技術を活用して製造している。製造プロセスは、まず、完成時に太陽光が当たる方向に合わせて、透明電極付き窓ガラスに透明導電膜をパターニングする。その上に、N層(電子輸送層)、ペロブスカイト層、P層(ホール輸送層)から成るペロブスカイト太陽電池をインクジェットで印刷する。次に、レーザー加工で、ペロブスカイト太陽電池の透明化や集積化を行う。その上にガラスを取り付け複層ガラス化あるいは合わせガラス化して完成する。
基材の構成は、上から順に、ガラス、封止剤、電極(+)/P層、ペロブスカイト層、電極(−)/N層、ガラスとなる。「ガラス建材の上に直接ペロブスカイト太陽電池を製造することで、建築材としてそのまま適用可能であると見込んでいる」とパナソニックHD テクノロジー本部 マテリアル応用技術センター 1部 部長の金子幸広氏は話す。
最大の特徴は、インクジェットでガラスにペロブスカイト太陽電池を印刷した後、レーザー加工で透過度をコントロールできる点だ。透過度を下げるとペロブスカイト太陽電池の集積率が増え発電量が増加し、透過度を下げるとペロブスカイト太陽電池の集積率が減り発電量が減少する。「そのため、顧客のニーズに合わせて、透過度が求められないガラス壁でペロブスカイト太陽電池の集積率を高めたり、透過度が必要な窓ガラスでペロブスカイト太陽電池の集積率を下げたりできる」と金子氏は強調した。
さらに、インクジェットでペロブスカイト太陽電池を印刷するため、さまざまなサイズのガラスに対応できる。「通常のガラス建材一体型ペロブスカイト太陽電池は、一般的な合わせ窓の内側にペロブスカイト太陽電池を印刷して提供することを想定している」(金子氏)。また、製造時のエネルギー消費も少なく、水と酸素を通さないガラス基板を採用し、ユーザーのカスタマイズにも応じるという。「例えば、窓ガラスの下部はペロブスカイト太陽電池の集積率を高め、上部〜中部はペロブスカイト太陽電池の集積率を下げて透過度を高めるといったカスタマイズが行える」と金子氏はコメントした。なお、発電効率は17.9%となっている。
利用シーンとしては、オフィスビルや商業施設、集合住宅、戸建て住宅の窓ガラス、ガラス壁、バルコニーのガラス手すり、天窓、ショーウィンドウなどを想定している。採用するメリットに関して、環境面では、CO2排出量の削減、省エネとZEB/ZEH規制強化への対応、環境認証「Green Building認証」などの取得への寄与、環境貢献性の向上と訴求を挙げている。経済面では、電気代の削減、遮熱効果による省エネ、不動産価値/賃貸料の向上、停電時対応性などの向上を列挙した。
金子氏は「太陽光発電パネルが設置されるケースが多いビルの屋上は面積が限られるため、発電量が限定される。解決策として、ガラス建材一体型ペロブスカイト太陽電池を活用することで、窓ガラスやガラス壁でも太陽光発電が行えるようになり、太陽光発電量を増加できる」と述べた。
ガラス建材一体型ペロブスカイト太陽電池の量産化および実用化の時期については2028年までを予定している。「大規模な実証実験を行った後に量産化と実用化を行う見込みだ」と金子氏は語った。
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