自動車産業も国内では縮小し続けていた! 勢い増す海外生産の経済効果は?:小川製作所のスキマ時間にながめる経済データ(12)(2/2 ページ)
ビジネスを進める上で、日本経済の立ち位置を知ることはとても大切です。本連載では「スキマ時間に読める経済データ」をテーマに、役立つ情報を皆さんと共有していきます。第12回では、先進国の産業の生産性や労働者数のシェアを可視化します。
国内生産数と海外生産数が逆転したのはいつ?
日本メーカーの自動車生産については、国内生産数がやや減少する一方で、海外生産数が大きく増加している傾向があるようです。それぞれの関係がどのように変化してきたのか、1つのグラフにまとめてみましょう。
国内生産数(青)は1993年の1100万台程度から、2021年には800万台程度にまで縮小しています。一方で海外生産は1998年の500万台強から右肩上がりで増え続けていて、2007年に逆転しています。
コロナ禍前の2018年には、国内生産数が1000万台弱に対して海外生産数は2000万台弱と、ほぼ2倍の水準に達しているわけですね。輸出数というよりも、海外生産数を増やしているということになります。
海外生産の経済効果を確かめよう
経済統計的な見方をすれば、海外生産とは日本に本社を置く日本企業が、海外に現地法人を設立して工場などを建て、多くの現地国の人を労働者として雇用し、生産活動(=付加価値の創出)を行うことになります。
つまり、生産活動に伴う付加価値であるGDP(国内総生産)は、日本ではなく現地国になるわけですね。当然雇用に伴うお給料も現地国の労働者に分配されます。
では日本には何の恩恵もないのかと言われれば、そうではありません。海外事業で得られた利益は配当金という形で、本国の本社に還流することになります。本社にとってこれらの配当金は営業外収益となり、当期純利益を押し上げる効果が期待できます。
国内で産業規模が停滞する中で、海外進出による効果がどの程度あるのか。自動車産業に関わる経済的指標を見てみましょう。
図4は、自動車産業(自動車/同付属品製造業)の売上高や付加価値などをまとめたものです。売上高や付加価値はリーマンショックなどによるアップダウンがありますが、全体としては緩やかに増加しているようです。
ただし、給与総額は長く停滞が続き、2010年辺りから少しずつ増えている状況のようですね。営業利益や当期純利益もリーマンショックやコロナ禍の時期を除けば増加傾向が続いています。
特に営業外損益が大きくプラスになっています。営業利益よりも当期純利益の方が多いという状況からも、海外事業からのリターンがかなり大きいものと推測されますね。
日本の自動車産業は、海外での生産数を大きく増やす一方で、国内では縮小させています。産業全体としては、国内事業に海外での収益が加わり利益は増えています。しかし、労働者の給与水準が長らく横ばい傾向にあるなど、やや停滞傾向にあります。ただし、2010年以降は全体的に少しずつ成長傾向にあると見なせます。
EV(電気自動車)へのシフトが加速していく中で、日本の自動車産業が今後さらにどのように推移していくのか、注目していきましょう。
⇒次の記事を読む
⇒記事のご感想はこちらから
⇒本連載の目次はこちら
⇒連載「イチから分かる! 楽しく学ぶ経済の話」はこちら
⇒前回連載「『ファクト』から考える中小製造業の生きる道」はこちら
筆者紹介
小川真由(おがわ まさよし)
株式会社小川製作所 取締役
慶應義塾大学 理工学部卒業(義塾賞受賞)、同大学院 理工学研究科 修士課程(専門はシステム工学、航空宇宙工学)修了後、富士重工業株式会社(現 株式会社SUBARU)航空宇宙カンパニーにて新規航空機の開発業務に従事。精密機械加工メーカーにて修業後、現職。
医療器具や食品加工機械分野での溶接・バフ研磨などの職人技術による部品製作、5軸加工などを駆使した航空機や半導体製造装置など先端分野の精密部品の供給、3D CADを活用した開発支援事業等を展開。日本の経済統計についてブログやTwitterでの情報発信も行っている。
- 小川製作所ブログ
https://ogawa-tech.jp/blog/ - meviyブログ
「製造現場から褒められる部品設計の秘訣」
https://jp.meviy.misumi-ec.com/info/ja/archives/cat_writer/writer_ogawa/
「中小企業経営から学ぶ生産性向上の秘訣」
https://jp.meviy.misumi-ec.com/info/ja/archives/cat_writer/writer_ogawa_2/ - Twitter
https://twitter.com/ogawaseisakusho
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 経済構造の国際体系「SNA」ってなんだ? 初歩から学ぶ経済の仕組み!
勉強した方がトクなのは分かるけど、なんだか難しそうでつい敬遠してしまう「経済」の話。モノづくりに関わる人が知っておきたい経済の仕組みについて、小川さん、古川さんと一緒にやさしく、詳しく学んでいきましょう! - 製造業は本当に「日本の稼ぎ頭」なの? 実力値をデータで確かめよう
ビジネスを進める上で、日本経済の立ち位置を知ることはとても大切です。本連載では「スキマ時間に読める経済データ」をテーマに、役立つ情報を皆さんと共有していきます。第1回では、国内産業の稼ぎ頭と言われる製造業の「実力値」を確かめます。 - 日本の中小製造業は本当に多すぎるのか、その果たすべき役割とは?
苦境が目立つ日本経済の中で、中小製造業はどのような役割を果たすのか――。「ファクト」を基に、中小製造業の生きる道を探す本連載。第10回は、いよいよ日本経済における中小製造業の役割についての考察となります。 - 工業が縮小する工業立国である日本、歪な「日本型グローバリズム」とは
苦境が目立つ日本経済の中で、中小製造業はどのような役割を果たすのか――。「ファクト」を基に、中小製造業の生きる道を探す本連載。第7回目は日本企業特有のグローバル化の姿である「日本型グローバリズム」についてのファクトを共有していきます。 - 国内投資を減らす日本企業の変質と負のスパイラル
苦境が目立つ日本経済の中で、中小製造業はどのような役割を果たすのか――。「ファクト」を基に、中小製造業の生きる道を探す本連載。第9回は、経済における企業の役割と、日本企業の変質についてファクトを共有していきます。 - まるで下町ロケット! 大企業を捨て町工場を継ぎ手にした“ワクワク”する生き方
東京都の下町、葛飾区にある小川製作所の小川真由(まさよし)さん。新卒で大手重工業メーカーに就職するも、家業を継ぐために中小企業に転職して修行。現在、メーカー勤務時代に習得した設計技術と、修行時代に培った営業力を生かし、家業の町工場を切り盛りしている。一体、なぜ町工場を継ぐ道を選んだのか。就職活動を控えた学生たちを前に、小川さん本人が語った。