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脱炭素とマイクロプラスチックに続く第3の環境課題「窒素廃棄物」の厳しい現状有害な廃棄物を資源に変える窒素循環技術(1)(2/2 ページ)

本連載では、カーボンニュートラル、マイクロプラスチックに続く環境課題として注目を集めつつある窒素廃棄物放出の管理(窒素管理)とその解決を目指す窒素循環技術の開発について紹介します。今回は、窒素管理の議論が起こりつつある背景についてご説明します。

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日本国内における窒素に関する状況

 この窒素管理の動きは特に欧州を中心に立ち上がってきたものです。欧州では以前から河川の硝酸汚染などの環境汚染に悩まされてきており、2016年にはEUが加盟各国に対して、NOxやアンモニアの大気放出量の削減目標を定め、すでに削減の取り組みを進めています。一方、日本では少々状況が異なります。日本では窒素廃棄物は現時点でその問題は顕在化していない、といえます。大気/水ともに高度経済成長時代の負の側面ともいわれた公害への対策として1980年代以降に多大な労力を払いってそれらの問題を解決してきたのが1つの理由です。

 もう1つの理由は、島国という、日本の地理的な特異性にあると考えています。大陸と異なり、大気/水に放出された廃棄物が海洋に移動しやすく、陸地で問題になりにくいのです。とはいえ、窒素廃棄物の問題は世界的な問題と捉えられつつあり、海洋に出たので関係ない、とはいえない状況になりつつあります。今後は国連環境計画を中心に、窒素廃棄物管理の強化が進んでいくと考えられます。


窒素化合物生産量の推移、環境白書の図をベースに著者が作成[クリックで拡大]

 もう1つの日本の窒素廃棄物管理に関する留意すべき点に、アンモニアの燃料利用があります。前述の通り、日本ではアンモニアの燃料利用を地球温暖化対策の1つの柱に位置付けています。その計画では、2050年には年間3000万tのアンモニアを利用する計画となっています。2015年時点の大気中に1年間に放出されるアンモニアは約37万tであり、この約80倍の量となります。

 このアンモニアのエネルギー利用については、現在の環境基準においては問題なく進められると考えています。一方、今後排出量の削減目標が設定された場合、現在は燃料利用がなされていない、つまりアンモニア燃料利用から排出される窒素廃棄物は存在しないことから、検討課題として持ち上がる可能性はありそうです。

どれだけ窒素廃棄物の排出を減らせばよいのか

 私たちは、窒素廃棄物の排出削減が必要な量を地球レベルで試算しています。まずは、地球が受け入れられる窒素排出量を検討しました。

 先ほどから述べている通り、地球は回復力を有しています。窒素の場合、植物がアンモニアや硝酸を吸収し、利用して無害な窒素ガスに変換できます。その自然分解能力が年間3億tと推定しました。一方、雷による生成や、植物の働きにより発生する窒素化合物は年間2.2億tと考えており、差し引きの年間8千万tが、人間によって環境に排出することができる窒素廃棄物量、ということになります。

 一方、2010年における人為的な窒素化合物の排出量は1.8億t、これが2050年には2.6億tまで増加すると推定しています。農業分野では、肥料利用量の節約や、フードロス削減により8000万t削減できると推定できることから、年間窒素化合物排出量8000万tの実現を目的に残り1億tの窒素化合物排出量の削減を目指すわけです。

 次回以降、この窒素廃棄物の放出を削減するための新たな窒素循環システムの提案、そのために開発を進めている技術について順にご紹介していきます。(次回へ続く


人間が輩出できる窒素化合物の量[クリックで拡大]

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筆者紹介

産業技術総合研究所 首席研究員/ナノブルー 取締役 川本徹(かわもと とおる)

産業技術総合研究所(産総研)にて、プルシアンブルー型錯体を利用した調光ガラス開発、放射性セシウム除染技術開発などを推進。近年はアンモニア・アンモニウムイオン吸着材を活用した窒素循環技術の開発に注力。2019年にナノブルー設立にかかわる。取締役に就任し、産総研で開発した吸着材を販売中。ムーンショット型研究開発事業プロジェクトマネージャー。博士(理学)。



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