三菱電機のパワーデバイス事業は2030年度にSiC比率30%へ、鍵はモジュール技術:組み込み開発ニュース(2/2 ページ)
三菱電機が重点成長事業の一つであるパワーデバイス事業を含めた半導体・デバイス事業の戦略について説明。SiCモジュールをEV向けに展開するなどして、2030年度のパワーデバイス事業におけるSiC関連の売上高比率を30%以上に高めたい考えだ。
ディスクリートではなくモジュールで勝負
ただし、生産したSiCデバイスが売上高に反映されるためには顧客に採用されることが必要になる。そこで三菱電機が、今後の市場急拡大を想定しているのが、ディスクリート(個別半導体)としてのSiCデバイスではなくパッケージング済みのSiCモジュールである。EVへの搭載を中核にSiCモジュール市場は急拡大し、2021〜2027年度の年平均成長率は43%に達するという調査もある。「パワーデバイスの市場動向としては、ディスクリートが先行して、その後からパワーモジュールの需要が立ち上がってくる。EV向けSiCデバイスの需要も足元はディスクリートが中心だが、SiCモジュールへの引き合いは前倒しで来ている状況だ」(竹見氏)という。
三菱電機のSiモジュールのシェアは、民生用IPM(インテリジェントパワーモジュール)で1位、電鉄用フルSiCモジュールで1位、パワーモジュール全体で2位となっており、ディスクリートよりもパワーモジュールで優位性を築いてきた。自動車向けパワーモジュールの累計採用実績は車両2600万台相当になっており、最新のSiモジュール「J1シリーズ」が同容量帯の競合他社製品と比べて約29%の小型化、約53%の軽量化を実現するなど、技術面でもリードしている。
SiCモジュールの開発でも、2010年10月にルームエアコン向け、2012年12月にCNCドライブユニット向け、2015年6月に高速鉄道の主変換装置向けで世界初を実現。2019年2月には自動車の電動システム向けで世界最高出力を達成するなどさまざまな実績を積み上げている。
これらに加えて、半導体・デバイス事業の売上高の13%を占める高周波・光デバイス事業で培ってきた化合物半導体技術に基づくSiCウエハーの基板欠陥無害化技術や、独自の電界緩和構造の採用で素子抵抗率を従来比で50%低減したトレンチ型SiC-MOSFETなどSiCデバイス単体となるチップ技術を組み合わせて、今後急拡大が見込まれるSiCモジュール市場のニーズに応えていく構えだ。
さらに、インフラや産業機器、車載システム、エレベーター、空調機器、白物家電などを手掛ける三菱電機グループ内に向けてSiCモジュールをはじめとするパワーデバイスを供給し、それらの知見を生かした付加価値の高い製品開発を進めていく方針である。
なお、2023年度からの三菱電機の新たな経営体制では、関連する複数の事業本部をまとめたBA(ビジネスエリア)に分け、BA内やBA間の連携を推進する方針となっている。グループ内にユーザーを持つという強みを発揮するには、これらBAとの緊密な連携が不可欠だ。また、新たな経営体制で半導体・デバイス事業は社長直轄事業となった。竹見氏は「今後の事業強化に必要な設備投資などについても即断即決しやすい体制になった」と述べている。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 自動車と民生に注力する三菱電機のパワーデバイス事業、12インチ化も着々
三菱電機が2021〜2025年度の中期経営計画で重点成長事業の一つに位置付けたパワーデバイス事業の戦略を説明。産業、再エネ、電鉄などの分野をベースロードとしながら、今後は自動車と民生の分野に注力し、2020年度の売上高1480億円、営業利益率0.5%から、2025年度に売上高2400億円以上、営業利益率10%以上に引き上げる方針だ。 - 三菱電機がSiCパワー半導体の前工程新工場を熊本県に建設、1000億円を投資
三菱電機は、SiCパワー半導体の生産体制強化に向け、熊本県泗水地区の拠点に新工場を建設することを発表した。合わせて、パワーデバイス事業における2021〜2025年度までの累計設備投資額を、従来計画の2倍となる約2600億円に引き上げる。 - ルネサスがSiCデバイスを量産「EV向けパワー半導体のシェアを大きく伸ばす」
ルネサス エレクトロニクスは、高崎工場に次世代パワー半導体として知られるSiCデバイスの生産ラインを導入し2025年から稼働を始める計画だ。 - レゾナックが展開するSiCエピウエハー事業の強みやトップシェアの要因とは
昨今の半導体需要増加に対してレゾナックのSiCエピウエハー事業が行っている取り組みを紹介する。 - デンソー初のSiCインバーター、レクサスのEV「RZ」のリアeAxleに採用
デンソーは同社初となるSiCパワー半導体を用いたインバーターを開発した。BluE Nexusが手掛けるeAxleのうち後輪用に組み込まれた上で、レクサスブランドのEV専用モデル「RZ」に搭載される。 - 日立AstemoがEV用インバーターにローム製SiC-MOSFETを採用、2025年に供給開始
ロームは、同社の第4世代SiC-MOSFETとゲートドライバICが、日立AstemoのEV(電気自動車)用インバーターに採用されたと発表。このインバーターは、国内自動車メーカーを皮切りに2025年から国内外向けに順次供給される予定である。