A-POC ABLE ISSEY MIYAKEとNature Architectsが織りなす革命的なテキスタイル成形技術:林信行が見たデザイン最前線(1)(3/3 ページ)
イッセイ ミヤケのブランド「A-POC ABLE ISSEY MIYAKE」とベンチャー企業のNature Architectsがファブリック製品の全く新しい製造技術を共同開発し、ミラノの旗艦店でプロトタイプを披露した。現地取材の模様をお届けする。
ファッション以外の分野への応用にも期待
運命的な出会いを果たした両社が最初に取り組んだのは、布から円の形を切り取って球体にするという実験だった。展示会場であるISSEY MIYAKE / MILANでは、地上階の入り口近くに、まずこの実験成果が飾られていた。A-POCの技術によって球体の元となる円の形が浮かび上がるように織られた真っ赤なテキスタイルが垂れ幕状に飾られるとともに、実際にそこから作られた球体やその球体から作ったイス、衣服が展示されていた。
球体は、テキスタイルから切り出された2つの円形パーツから作られている。この円形パーツにアイロンの蒸気を当てると布の収縮が始まる。円の外側ほど内側に向かって小さく縮み、ただの円だったものが半球の形になっていく。後はこの2つの半球を縫い合わせて球体にしたり、出来上がった球体を少し凹ませて椅子にしたり、あるいは半球をトルソーに巻いて女性用ワンピースとして成形したりなど、さまざまな製品に加工できる。
布から球体を作り出すことに成功したことで、この技術の可能性を確信した両社は、続いてこの技術があるからこそ作れる新しいメンズジャケットの開発に取り組む。これまでのように数点のパーツを縫い合わせて形を作るのではなく、まずは一枚の布を立体的に変形させてできるジャケットの形を作り、DFM技術を使ってそれを平面に広げた際の形や、その布のどの部分にストレッチ糸を使うかを視覚化した設計図を作成する。続いて、イッセイ ミヤケのA-POCの技術によって収縮する糸としない糸を混ぜながら、この設計図が織り込まれたテキスタイルをコンピュータ制御で織っていく。
この方法で見いだされたジャケットの設計図は中心から腕の前後の形と背中の形が伸びた、これまで誰も見たことがない独特の形だった。このジャケットと、そのベースになった裁断された布は店舗の中庭の見える部屋に展示された(記事冒頭に示した画像1で確認できる)。
続いて、店舗の2階ではこの技術の可能性を示す応用例として、布で作った半球を被せた照明やドーム(建造物)のミニチュアが展示されていた。
これまでNature Architectsは、主に3Dプリンタから出力された樹脂でさまざまなメタマテリアルを作ってきたが、Steam Stretchを用いた製品は、成形後も凹ませたり、ひねったりとさらなる変形を加えられる柔軟性があり、Nature Architectsとしても新境地を切り開く成果へとつながっている。また、展示されていたジャケットはあくまでもプロトタイプでそのまま商品化されることはないが、両社では既に製品化に向けたジャケットの開発も始まっているという。
イッセイ ミヤケの創業者である三宅一生氏は、裁断したパーツを立体的に縫い合わせて作る西洋の服づくりとは異なる、「一枚の布」をまとう形での服づくりを理想としていた。
1998年に開発した、糸をコンピュータ制御し、あらかじめ服の設計図が組み込まれたテキスタイルを織って、そこから服を作るA-POCの技術は、“A Piece of Cloth”(日本語訳で“一枚の布”)の名称からも分かる通り、三宅氏の理想を追求する技術として、ファッション業界に大きな衝撃を与えた。
そこに、2012年に登場した布の立体的変形を可能にするSteam Stretchの技術が加わり、さらに2023年、Steam StretchとNature ArchitectsのDFM技術を使って、あらかじめ立体的な変形まで考慮した設計図を考案できるようになったことは、ファッション業界、ひいてはテキスタイル業界全体にとって大きな飛躍だといえよう。今回の特別展示の取材からその可能性を感じることができた。
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