A-POC ABLE ISSEY MIYAKEとNature Architectsが織りなす革命的なテキスタイル成形技術:林信行が見たデザイン最前線(1)(2/3 ページ)
イッセイ ミヤケのブランド「A-POC ABLE ISSEY MIYAKE」とベンチャー企業のNature Architectsがファブリック製品の全く新しい製造技術を共同開発し、ミラノの旗艦店でプロトタイプを披露した。現地取材の模様をお届けする。
Nature Architectsのメタマテリアル設計技術との運命的な出会い
Nature Architectsは「モノの機能を自在に設計可能な社会」の実現を目指し、2017年に創業されたベンチャー企業だ。今回のプロジェクトでも中心的役割を果たした同社 代表取締役 CEOの大嶋泰介氏や同社 取締役 CROの須藤海氏らによって創業された。
同社の強みは、伸縮や変形など通常の材料にはない特性を持つメタマテリアル材料でモノを設計する独自技術「DFM(Direct Functional Modeling)」にある。この技術はユーザーが求める最終的な機能から逆算して、プロダクトの素材の形を割り出すことができる。
同社のWebサイトでは、DFMと3Dプリンタで作られたヘッドフォンが紹介されている。3Dプリンタで完成した状態で造形された組み立て不要のヘッドフォンだが、ちゃんと装着する人の頭の幅に合わせて横方向にだけ伸縮したり、イヤーパッドの部分が耳の傾きに合わせて角度を変えたりする変形機能が最初から組み込まれている。こうした変形を許容するには、どういった構造を3DプリントすればいいのかをDFMが導き出してくれるのだ。
同社はこの技術を使ってスポンジのように伸縮する樹脂パーツなど、さまざまなサンプルを作って自動車の内装での応用などを模索してきた。しかし、これまで変形素材として選んできたのは3Dプリントした樹脂が中心だった。
一方、イッセイ ミヤケは2012年3月に「パリ・ファッションウィーク」で行われた、2012-13年 秋冬コレクション展「Mineral Miracle / ミネラル・ミラクル」で、独自開発の新素材「Steam Stretch」を発表。シルク素材とストレッチの糸を部分的に使った布で作られており、蒸気を当てるとストレッチ糸が縮んで立体的な形が現れる。実はこのコレクションを担当していたのが現在、A-POC ABLEを率いている宮前義之氏だった。
その後もイッセイ ミヤケは度々、このSteam Stretch素材を製品に活用してきた。しかし、人間の頭の中だけで複雑な変形を想定して服の設計図を描くのは至難の業(わざ)だ。そのため、これまでSteam Stretch技術の利用法は、既にある服の表面にアクセントとして起伏を付けるといった装飾的な利用や、伸縮が必要な膝や肘の部分に適用するなど機能的な活用が中心で、限定的な利用にとどまっていた。
この状況を打破したのが、Nature Architectsとの出会いだ。Nature Architectsは蒸気により変形する布、Steam Stretchという新しいメタマテリアルを取り入れることで、DFM技術のポテンシャルをさらに引き伸ばしつつ、これまでになかった新しい服づくりというDFM技術の応用先を開拓することができた。
一方の宮前氏率いるA-POC ABLEのチームもDFM技術を活用することによって、Steam Stretchを従来の装飾や機能といった限定的な利用だけでなく、新しい服の構造そのものの検討にもつなげられるようになった。
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