検索
連載

先進国の「工業」労働者数は停滞傾向、代わりに勢いを増す産業は?小川製作所のスキマ時間にながめる経済データ(10)(2/2 ページ)

ビジネスを進める上で、日本経済の立ち位置を知ることはとても大切です。本連載では「スキマ時間に読める経済データ」をテーマに、役立つ情報を皆さんと共有していきます。第10回では、先進国間での産業別労働者数の推移を確認します。

Share
Tweet
LINE
Hatena
前のページへ |       

ドイツの「工業」労働者数は約20年間でほぼ変わらず

 続いて、図3がドイツの産業別労働者数の推移です。


図3:ドイツの産業別労働者数[クリックして拡大] 出所:OECD統計データを基に筆者にて作成

 米国と同様に、「公務・教育・保健」の労働者数が1990年代の段階で既に非常に多く、その後も増加傾向が続いており、現在最も労働者数の多い産業となっています。

 一方で米国と異なるのが「工業」です。一定以上の労働者の規模となっていますが、1997年から2019年にかけて横ばいになっています。そして、「専門サービス業」の労働者が増加し続けており、大きな存在感を示しつつあるように思います。

表3:ドイツの産業別労働者数
産業 労働者数(1997年) 労働者数(2019年) 増減数
工業 840万人 840万人 ±0人
一般サービス業 890万人 1020万人 +130万人
建設業 310万人 260万人 −50万人
専門サービス業 300万人 620万人 +320万人
公務・教育・保健 870万人 1130万人 +260万人
上記以外 590万人 660万人 +70万人
全体 3800万人 4530万人 +730万人

 ドイツの労働者数は1997年から2019年にかけて約730万人増えています。その大半が「専門サービス業」と「公務・教育・保健」での労働者が増加したことによるものです。

 このように先進国の間では、労働者数の変化については「工業」「建設業」で減少、停滞している反面、「専門サービス業」「公務・教育・保健」が大きく増加しているという共通点がありそうです。

先進国で高まる「公務・教育・保健」のシェア

 せっかくですので、主要国での労働者数シェアを比較してみましょう。


図4:産業別労働者数のシェア(2019年)[クリックして拡大] 出所:OECD統計データを基に筆者にて作成

 主要国の産業別労働者数シェアを比較したグラフが図4です。コロナ禍前の2019年のデータで比べました。各国とも「一般サービス業(青)」「公務・教育・保健(緑)」「工業(赤)」「専門サービス業(紫)」が労働者数の多い上位4産業となっています。

 「工業」が10%前後で主要産業ではなくなりつつあるのが、米国、英国、フランス、カナダです。これらの国は「公務・教育・保健」のシェアが大きいですね。特にフランスでは3割近くに達しています。

 一方で工業立国であるドイツは「工業」が18.5%と、主要先進国の中で最も大きなシェアを占めています。その上で、「公務・教育・保健」が25%、「専門サービス業」が13.7%といずれも比較的高いシェアを誇っています。その分「一般サービス業」や「建設業」のシェアが低めになっています。

 日本の「工業」のシェアはイタリア、韓国と同水準で、その他の構成もこの2国と似ています。ただし「公務・教育・保健」は18.5%で主要国中最低です。

コロナ禍で主要国の産業構造も変わる?

 今回は主要国の産業別の労働者数を眺めてみました。どのような産業で労働者が多いのか、各国の特徴も見えてきたのではないでしょうか。

 各国で「工業」や「建設業」の労働者数が縮小か横ばいになる一方で、公共性の高い産業(「公務・教育・保健」)や、専門性が高い、あるいは業務支援的な産業(「専門サービス業」)が増加しています。

 特に米国、ドイツ、フランス、英国、カナダはいずれも「公務・教育・保健」のシェアが圧倒的です。「工業からサービス業へ」といった産業変化の傾向がしばしば指摘されることも多いですが、データを見る限りは「工業から公共・専門・業務支援サービス業へ」といった変化が見られますね。

 「工業」の労働者数は一時期より減少している国が多いですが、近年では下げ止まって横ばい傾向にあるようです。各国とも現地生産化などに伴って、国内での工業の労働者が増えにくい環境にあった事がうかがえます。コロナ禍を通じて生産拠点の国内回帰が進むのかどうかで、今後の推移に影響が出る可能性もあります。

⇒次の記事を読む
記事のご感想はこちらから
⇒本連載の目次はこちら
⇒前回連載の「『ファクト』から考える中小製造業の生きる道」はこちら

筆者紹介

小川真由(おがわ まさよし)
株式会社小川製作所 取締役

 慶應義塾大学 理工学部卒業(義塾賞受賞)、同大学院 理工学研究科 修士課程(専門はシステム工学、航空宇宙工学)修了後、富士重工業株式会社(現 株式会社SUBARU)航空宇宙カンパニーにて新規航空機の開発業務に従事。精密機械加工メーカーにて修業後、現職。

 医療器具や食品加工機械分野での溶接・バフ研磨などの職人技術による部品製作、5軸加工などを駆使した航空機や半導体製造装置など先端分野の精密部品の供給、3D CADを活用した開発支援事業等を展開。日本の経済統計についてブログやTwitterでの情報発信も行っている。


Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

前のページへ |       
ページトップに戻る