熱を“宇宙に”逃がす、貼ると工場内温度が最大15℃低下するフィルム型新素材:材料技術
SPACECOOLは「第2回脱炭素経営EXPO」で独自技術で太陽光の熱を防ぎつつ内部冷却を実現する素材「SPACECOOL」を展示している。
放射冷却素材を開発するスタートアップであるSPACECOOLは、「第2回脱炭素経営EXPO」(2023年3月15〜17日、東京ビッグサイト)で、独自技術によって太陽光の熱を防ぎつつ内部冷却を実現する素材「SPACECOOL(スペースクール)」を展示している。
【訂正】SPACECOOLからの申し入れで、初出時の記事で掲載していた製品価格情報を削除しました。
ゼロエネルギーで冷却効果
SPACECOOLは大阪ガスの放射冷却素材に関する研究成果を基に、同社からスピンアウトして2021年4月に設立された企業である。ENEOSホールディングスや本田技研工業などと実証実験を実施している。
SPACECOOLは照射された太陽光の熱を防ぐとともに、同素材を付与した物体内部の熱を逃がして冷却効果を生む。素材の熱の反射率と放射率は共に約95%。遮熱素材の場合は太陽光が当たると熱の伝導などで内部が温まるが、SPACECOOLはこれを防ぎ、内部が外気より低温になることもある。
フィルム型の場合は工場設備やトラックのコンテナ、工場など建造物の屋上や外壁に貼り付ける形で使用する。フィルム形状の他に、膜材料の形態などでも素材提供を行っている。
実証実験において工場へのSPACECOOL導入効果を検証したところ、同素材の施工箇所と非施工箇所で天井内部の温度に約15℃の違いが見られたという。また、分電盤に施工した場合は、施工前後で空調設備の消費電力が晴天日で約21%、雨天時や曇天日を含めても約20%削減できると確認した。「電気代の高騰が続く中、ゼロエネルギーで消費電力を2割程度減らせるのは大きな意味を持つだろう」(SPACECOOLの担当者)。
こうした性能を実現した背景には、SPACECOOLの放射冷却の技術がある。放射冷却とは物体から熱が逃げて冷えていく現象であり、代表例として夜間に地表面の熱が大気を通り宇宙空間へと放出される様子がしばしば挙げられる。ただし、宇宙空間にまで熱が抜けるには、赤外線の中でも限られた8〜13μmの波長域(いわゆる「大気の窓」)で放出されなければならない。SPACECOOLは特殊な多層構造のフィルムを用いることで入射光をこの波長域で光学的に制御しており、これによって貼り付けた物体内部の熱を放出させやすくしている。
SPACECOOLは屋外環境でも使用に耐え得る素材として設計されており、「促進劣化試験を通じて6年以上は反射率と放射率に変化が生じないことを確認している。おそらく10年程度は確実に使えるだろう」(同担当者)という。価格情報は非公開。
SPACECOOLの担当者は「工場には設備構造や製造プロセスの都合など、さまざまな事情で空調設備を利用できないエリアもある。SPACECOOLはそうしたケースでも屋内温度の低下に貢献する素材として活躍するはずだ」と説明した。
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