設備は自由に使って良し! 山形の板金屋さんが「放課後工房」を始めたワケ:ワクワクを原動力に! ものづくりなヒト探訪記(1)(3/3 ページ)
本連載では、厳しい環境が続く中で伝統を受け継ぎつつ、新しい領域にチャレンジする中小製造業の“いま”を紹介していきます。今回は板金加工を手掛ける山形県のみよし工業に取材しました。
CADの勉強も少しずつ
――斎藤さんはみよし工業に入社されて何年目でしょうか?
斎藤さん もうすぐで4年目になります(2022年5月時点)。それまでは横浜で柔道整復師の仕事をしていました。
――ご出身は山形ですよね。一度山形を出られたのですね。
斎藤さん 高校卒業後は地元の東北芸術工科大学の建築学科を卒業しましたが、卒業後に医療系の専門学校に進学し柔道整復師の資格を取得しました。みよし工業に入社してからも福利厚生の一環で従業員に施術したり、ヨガをみんなでやったりしています。柔道整復師の仕事を続けていたら、今頃は開業していたかもしれませんね。
――福利厚生で身体のケアができるのはいいですね。ご結婚がきっかけでみよし工業に入社されたと伺いました。
斎藤さん そうです。結婚を機に入社し、経理、総務、自社製品開発の仕事を担当しています。おじいちゃんが大工の仕事をしていて、自分も建築や造園に興味がありモノづくりは好きなので、設計やCADも少しずつ勉強しています。
――鏡さんも東北芸術工科大学をご卒業されていますよね。
鏡さん 斎藤さんと同じ東北芸術工科大学の美術科を卒業しています。子供の頃から絵を描くことが好きで大学では油絵を専攻していました。
――絵は今も描いていらっしゃるのですか?
鏡さん 今は油絵ではなくアクリル絵の具になりましたが、休みの日には絵を描くこともあります。部屋には絵がたくさんあって絵と共同生活をしているみたいになっているので、アトリエが欲しいなと思っています。
――仕事をしながらも絵は続けられているのですね。斎藤さんは趣味や好きなことはありますか?
斎藤さん バイクとカメラです。山形に戻ってからはあまり行けていないのですが、横浜に住んでいた頃は日帰りでいろいろなところにツーリングに出掛けました。カメラは一眼レフを持って歩きながら写真を撮るのが好きです。東京の谷根千(谷中・根津・千駄木)エリアとかが好きで、1日中撮っているととても良い写真が何枚か撮れるんです。それが楽しかったですね。
――アクティブな趣味ですね!
斎藤さん いろんなものに興味を持つタイプで、気になるとやってみたくなる性格だと思います。
「板金の風鈴」にもチャレンジしたい
――みよし工業としてこの先の目標はありますか?
斎藤さん 目標の1つに「メディアなどを通して知ってもらう」があります。自分たちの会社が取材、掲載されたというのは誇りですし、モチベーションも上がります。みよし工業で働くみんなに誇りを持ってもらいたいという思いがあるので、取材してもらえるのはうれしいです。また、みよし工業のことをさまざまな方に知ってもらうことで、新しい仕事や、みよし工業で働きたいと思ってくれる人との出会いにつながるかもしれないと思っています。
――B2C向け事業の目標はありますか?
斎藤さん アクセサリー事業を継続させて、今後5年以内に自社製品の売り上げを会社全体の10%までもっていきたいと思います。比較的反応の良いマルシェでの販売も続けつつ、新たなアピールの仕方や販売方法についても考えていきたいです。
――個人の目標はありますか?
鏡さん 技術や知識を身に付けつつ、銅の緑青処理を勉強したいと思っています。
斎藤さん 今後、自社製品開発では風鈴を作ってみたいと思っています。ガラスでも鋳物でもない板金の風鈴です。どんな風に作るのかは私にもまだ分かりませんが、技術を身に付けていつか作ってみたいです。また、チタンの陽極酸化処理(チタンの発色など)を勉強し、アクセサリーの幅を広げていきたいです。
みよし工業有限会社
所在地 山形県山形市大字十文字字韮窪北3455-118
代表 斎藤 栄作
会社Webサイト みよし工業有限会社
会社の設備を活用して好きなものを作って良いという「放課後工房」の紹介ページをのぞくと、実にさまざまな製作物がありました。今回インタビューした斎藤いくみさんが作ったバイクのマフラーもあります。斎藤さん自らものづくりを楽しんでいる様子が伝わりました。また、この取り組みに引かれ入社し、今ではスキルアップを目指している鏡さんのお話を聞き、モノづくりしてみたいという素直な思いを大事にできる環境であると感じました。
著者紹介
ものづくり新聞
Webサイト:https://www.makingthingsnews.com/
note:https://monojirei.publica-inc.com/
「あらゆる人がものづくりを通して好奇心と喜びでワクワクし続ける社会の実現」をビジョンに、ものづくりの現場とつながり、それぞれの人の想いを世界に発信することで共感し新たな価値を生み出すきっかけをつくりだすWebメディアです。
2023年現在、100本以上のインタビュー記事を発信し、町工場のオリジナル製品開発ストーリー、産業観光イベントレポート、ものづくり女子特集、ものづくりと日本の歴史コラムといった独自の切り口の記事を発表しています。
編集長
伊藤宗寿
製造業向けコンサルティング(DX改革、IT化、PLM/PDM導入支援、経営支援)のかたわら、日本と世界の製造業を盛り上げるためにものづくり新聞を立ち上げた。クラフトビール好き。
記者
中野涼奈
新卒で金型メーカーに入社し、金属部品の磨き工程と測定工程を担当。2020年からものづくり新聞記者として活動。
広報・マーケティング
井上史歩
IT企業の広報在籍の後、ものづくり新聞にジョイン。ものづくり業界で働く女性のための新企画を制作中。
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